直木賞作家・佐藤正午さん「事実は小説より奇なり、ではなく事実に書く余地があるからこそ小説が生まれる」
エッセーでは、切り抜いた新聞記事の事件から着想を得た短編など、創作の「種」が、実話に基づくことも明かされる(「悪癖から始まる」1997年)。「実話や実体験が『もっとこうだったらおもしろいのに』というのが小説のスタート地点。事実は小説より奇なり、ではなく、事実に書く余地があるからこそ小説が生まれる」と語る。
虚構を本当のように見せることに引かれ、小説を書き続けてきた。
万年筆での手書きからワープロ、パソコンと変わり、近年は直木賞受賞などで注目されたが、「書く」現場の日常は何も変わらない。「これでいいと思えたら、自分のセンスを信じる図図しさも必要。読み直して書き直して小説ができるということ、その繰り返し」と話す。来年、文芸誌で年1回という異色のペースで書き続けた長編「熟柿」の刊行が決まっている。古希を迎えようとする作家は「面白がってくれる編集者たちがいて続けてこれた。これが最後の長編かという気がしないでもないが、また書きたくなるのかもしれません」と含みを持たせた。(後田ひろえ)