開業13年目のFPが仕事で使う「危ない投資」の見分け方。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
■クレディ・スイスの実態
クレディ・スイスがUBSに救済買収をされた2023年3月、スイスの政策金利は1.5%と低い水準にあった(執筆時点で1.75%)。前述の楽天のドル建て利回りが高い理由はそもそもアメリカの金利が高いことも影響しており、執筆時点でアメリカの政策金利は5.5%だ(日本は-0.1%)※。 ※政策金利と国債の利回り、預金金利等は異なるが、目安として提示した。 スイスの金利がこれだけ低金利でありながらAT1債が10%近い利回りを得られたということは、それだけリスクが高いことを示している。クレディ・スイスは突然UBSに買収されたわけではなく、業績悪化により格付けは下落傾向にあり、2022年末でBBB-(トリプルビーマイナス)となっていた。 2021年・2022年と2年連続で赤字、経営不安からくる多額の預金流出、株価下落、リストラ、格付けの低下、そしてこれらの原因ともなっていたコンプライアンスやガバナンスをめぐる多数の深刻なトラブル……。 これらの情報はクレディ・スイスの名前から想起される「世界中に展開する安心・安全な超大手金融機関」というイメージからは大きく乖離している。AT1債に関する投資判断は極めて難しかったとしても、このような情報はググれば簡単に出てくる。 これらの情報を組み合わせれば「クレディ・スイスのAT1債はただ劣後債だから利回りが高いわけではない、これだけ格付けが低くて不安要素が多いから利回りが高い」という投資判断も可能だったはずだ。 救済買収されたことでこれらのシグナルは結果として全て正しかった、ということになる。
■「状況証拠」から判断する。
もちろん、こういった話は結果論でしかない。何も起きなければ投資家は大儲け出来たと考えれば、ハイリスク・ハイリターンの投資で損をしただけ、という見方も出来なくはない。 しかし問題は、投資家がハイリスクであることを認識していたか?ということだ。仮に筆者がこの商品を売り込まれたとしても、どのような商品か把握することは難しかっただろう。「目論見書(もくろみしょ)」といって金融商品の情報が詳しく書かれた書類を読んでも理解できなかったに違いない。現在ならGoogle翻訳で和訳も簡単に出来るが、ここまで複雑な内容は日本語でも理解できない。 売り手である三菱UFJモルガンは訴訟中としてメディアの取材にもノーコメントを貫いているが、果たして問題となった条項を把握していたのか?ということになる。これは今後裁判で明らかになるだろう。 結局は「リスクはどう判断すれば良いのか?」という事になる。 詳しい情報がわからずとも「状況証拠」として利回りが高いことは分かる。つまり「こういう理由だからこの商品はハイリスクで利回りが高い=ハイリターンんだな」という本来の順番ではなく、「利回りこんなに高いということは何か事情があるんだろう」「利回りの高さから考えて、自分がバカで分かってないだけでハイリスクな商品なんだろう」と逆算して推測することは可能だ。 「ハイリターン」ならば当然「ハイリスク」である、という極めて単純な理屈だ。 海外の超大手金融機関が10%近くの高い金利で資金調達をする状況は、月利3%とか元本保証で年間10%といった5秒で分かるサギ商品に近い危なさを筆者は感じた。もしこんな商品を三菱UFJモルガンの営業マンから売り込まれたら「なんでこんなに利回りが高いんですか?理由は?」と確実に突っ込んでいただろう。 なお、スプレッドという言葉から分かるように、この判断方法は単純な利回りの高さではなく、ローリスクで運用した場合と比べて「利回りの差の大きさ」で判断する。現在の日本で5%の元本保証は明らかにサギと分かるが、バブル期は銀行預金でこれくらいの利回りを得られた。通常は長期国債の利回りを判断基準にするが、身近なものとして銀行の定期預金を代用しても問題は無い。
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