近いうちにアメリカが「銀行の経営難」に襲われる!?…米FRBが実施した銀行救済策が「問題の先延ばし」にすぎなかったワケ【マクロストラテジストが解説】
補足(1) 銀行が巨額の保有債券含み損を抱えた背景
米国では、2023年3月を中心に、市中銀行がドルの資金繰り難に陥り、一部の地方銀行が経営破たんしました。 そのおもな起源は、新型コロナウイルス・パンデミック後の低金利時に、大手・中小を問わず、銀行が多額の債券(米国債や政府機関MBS※)を購入したことにあります。 ※ MBS=住宅ローン担保証券 2021年5月に入り、インフレ率(前年比)は5%に達しました。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)は、2021年のほとんどの期間を通じて「インフレは一時的」と強弁しました。興味深いことに、インフレが7.5%を超えた2022年1月の時点でも、米国10年国債利回りは1%台でした。すなわち、債券市場は2021年を通じ、「インフレは一時的」というFRBの強弁を熱心に聞き続けました。 こういうと、「FRBはその時点でもまだ、量的金融緩和(QE)による債券の買い入れを(小規模ながらも)継続していたために、利回りが低位に抑制されただけだ」との反論があるかもしれません。 それは間違いです。なぜなら銀行は、2021年を通じて、米国債もMBSについても残高を増やしていたからです。すなわち、銀行は、FRBの「インフレは一時的」との言説に乗っかるように「債券を買っていた」のです。 その後、FRBは2022年3月に入り、大幅かつ急速な利上げを開始します。このFRBの「変節」と「転換」(pivot)が、債券の利回りを上昇させ、銀行は保有債券に大幅な含み損を抱えることになりました(→含み損の規模はいまもほとんど変わらず、です)。
補足(2) 銀行がドルの資金繰りに窮した背景
銀行が保有債券に多額の含み損を抱えるようになったあと、一部の中小銀行からは、(さまざまな理由で他行やMMFなどに)預金が流出しました。 当初、それらの中小銀行は、預金の流出(=負債の減少)を、他行やMMF、政府系住宅機関などからの借り入れ(=フェデラルファンドやレポ(後述)での借り入れ;ホールセール・ファンディングと呼ばれます;負債の増加)でもって穴埋めしたとみられます。 しかし、預金の流出(=負債の減少)が、「他行やMMF、政府系住宅機関などからの与信枠の限度」を超える規模になると、資産の売却で対応せざるを得ません。 そうしたときに、換金可能な資産(=流動性の高い資産)は有価証券です。結果として、銀行は、預金の引き出しに充てるために、(含み損を抱える)有価証券を売却し、大幅な損失を計上することになりました。たとえば、もともとは時価10億ドルで購入した米国債が、金利の大幅上昇によって、時価8億ドルの価値しか持たなくなれば、これを全額売却すると、2億ドルの売却損が生じます。 大幅な損失は、資本の大幅な減少です。これらが事業継続への懸念となって、さらなる預金の流出、そして経営破たんにつながりました。 以上は預金網をも持つ、米銀の話です。 他方で、さしたる融資先も預金を集める支店網も持たない外国銀行はたいてい、手持ちの自国通貨や、買い入れる有価証券を担保に入れること(=レポ)で、ドルを借りて有価証券に投資を行います。たとえば、ある外国銀行が証券会社から10億ドルの米国債を買うとします。当然ながら、その外銀は(証券会社に対して)10億ドルの支払いが必要になります。 このとき、その外銀は(外銀ゆえに)ドルをほとんど持っていません。そこで、買い入れる10億ドルの米国債を即座に(ドルが潤沢なMMFや米銀などに)担保として差し入れることで、(MMFや米銀から)10億ドルを借りてきて(→ヘアカットは捨象)、その10億ドルの買い入れ決済に充てます(=証券会社に支払います)。 すなわち、レポは住宅購入に似ています。我々のほとんどは、家を買うときに多額のお金はありません。このとき我々は、買う家を担保に入れることで、家を持つことができますし、居住というサービスを得ることができます。同じことを有価証券で行えば、有価証券を保有/有価証券に投資できます。 話を続けると、レポの期間は1日や1週間、1ヵ月、3ヵ月などであり、それらの満期が来たときには、その外銀はいったんは(米銀やMMFなどに)10億ドルを返済しなければなりません。 レポ借り入れが満期を迎えるときに、その外銀がまだ、(資産サイドにある)10億ドルの米国債を保有し続けたい、再び、その10億ドルの米国債を担保に入れることで、10億ドルを借り、その10億ドルで、当初のレポ借り入れの満期10億ドルを支払うことで、投資のポジションを維持します。すなわち、同じレポ借り入れの作業を繰り返すということです。 しかし、金利上昇で米国債の時価が8億ドルに目減りするとどうなるでしょうか。たとえ、米国債の時価が8億ドルに下落しようとも、外銀は、レポの満期で10億ドルを返済しなければなりません。 再び、同じ米国債を担保に入れるとしても(時価である)8億ドルしか借りることができず、それで米国債の投資ポジションは維持できますが、最初に借りた10億ドルを返済するために、(差し引き)2億ドルをどこかから用立ててくる必要があります。これは「信用取引の追い証」と同じ状況です。 こうなると外銀は資金繰りに窮しますし、レポによる借入=投資のポジションの縮小を迫られます。それは、保有有価証券の投げ売りと同じことです(→実際には、たとえば、レポの期間が1週間で、その間に時価が大きく動く場合には、日々、追加の資金や債券などのやりとりをして=「値洗い」、満期時に取り立てができないといった事態を防ぐようにします)。
【関連記事】
- 日本製鉄の「USスチール買収」はナゼもめるのか 日本人が無自覚な“ワシントンの視線”【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
- トランプ次期大統領、国連気候変動枠組み条約「パリ協定」から離脱か…デジタル課税の多国間条約が発効できない可能性も、10年かけた議論が水の泡?
- 一時「1ドル155円」に迫るも、トランプ氏勝利による〈円安〉は終了の兆し…過去2年連続で米金利“下落”の年末相場、今年はどうなる?【国際金融アナリストが考察】
- 自動車業界の2024年度4-9月期決算 販売台数はマイナスだが、円安の恩恵を受ける【解説:三井住友DSアセットマネジメント株式会社】
- 【米ドル円】東京海上アセットマネジメントが注目…11月第3週の為替相場にインパクトを与える「重要な経済指標」