【いくら効率化しても「最大の障壁」が…】100億かけても「DXの効果が全然出ない」3つの理由 いったい何が問題?専門家が解説
これまで担当していた仕事は消滅してしまったわけですから、浮いた従業員が付加価値の高い仕事をして効果を出してくれるはずだという期待があるのでしょう。 言葉を選ばずに言うなら、「クビにしないかわりに、そこで生まれるはずだったコスト削減の効果を上回る『何か』を生み出してくれ」ということでしょう。 人件費を削ることばかりがボトムラインの改善策ではありませんから、この期待は健全なものですし、「事業の成長・拡大のためのトランスフォーメーション」という点でも好ましいものです。
ただ、違和感が否めないのは、「付加価値の高い仕事」の中味がはっきりしないことが大半であることです。 「付加価値の高い仕事」の定義は幅広く、主観にもよります。 「社員同士が気持ちよく仕事をできるように工夫する」「ごみの分別をきちんとする」「多様性推進の活動をする」といった類のことでも、付加価値といえます。 ただ、投資に見合う解雇以外の効果を求めるのならば、「付加価値とは、付加価値『額』を上げることに直接に資することである」と定義することが必要です。付加価値額は、粗利と考えてもらってかまいません。
■「解雇以外の唯一の解決法」はこれだ! 「付加価値の高い仕事にシフトして効果を出してもらいたい」と経営者の方が口にするときは、「削減で浮いた従業員を、粗利の増加に効く仕事に、再配置していくわけですね」とあえて確認します。 残念ながら「付加価値の高い仕事」を「粗利の増加」と認識している経営者はそう多くありませんし、「再配置する仕事の当たり」をつけている経営者は本当に少ないものです。 これでは効果を出すことはかなり難しいわけです。
「守りのDX」は、解雇によってコスト削減が可能ならば、ほぼ当初想定した効果を享受することができます。 ただ、これが難しいときには、「浮いた従業員の異動」と「新たに担ってもらう仕事」が必要となるわけです。 今回は「DXの効果が出ない3つの理由」について述べてきましが、現実から目を背けたままの「守りのDX」であれば、推進しても思うような効果は得られないことがおわかりいただけたでしょうか。 金と時間を浪費して、ただ忙しくしているだけ……。DX推進がこうした残念な事態に陥らないためにも、経営者は解雇に対する意思決定をあいまいにすることなく、自社が考える「付加価値の高い仕事」を明確に定義づけすることが、きわめて重要なのです。
大野 隆司 :経営コンサルタント、ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ合同会社代表