「罪を犯した少年」と「捨て犬・野良犬」が共に歩む再出発、涙の別れ…少年院の保護犬訓練プログラムに密着
覚醒剤使用の過去がある少年の葛藤と成長
訓練の基礎となるのは「エサつり」だ。犬に指示を出し、うまくできればご褒美としてエサを与え、覚えさせていくというもの。 戸惑いながらも訓練に取り組むツカサは、覚醒剤やコカインなどに手を出していた過去がある。「フラッシュバックとかが起きるので、薬で抑えている。薬物をやりたくなると震えたり、幻覚や幻聴が聞こえたりする」。教官の我満さんも「もともと薬物後遺症がひどい子で日常集団生活もままならない子だった。治療が必要な子だった」と振り返る。 もともと、犬はあまり好きではないというツカサ。「引っ張られているとき、本当は(フーカを)蹴りたい」「結構イラッとする」と胸の内を明かした。 少年たちは訓練中、「シェイク(お手)」「シット(お座り)「リーブ(離れて)」などのコマンドを使い指示を出しながら、少しずつ、色々な動きに挑戦していくが、なかなか犬が動かない場面もある。台の上に乗る「ジャンプ」の練習で他の2匹はできたが、フーカはなかなかできなかった。ケージの中が落ち着くフーカの特性を考慮して、台の上にケージを乗せれば入ってくれるのではないかと、皆でアイデアを出し合う。
ツカサが「ハウス(入れ)」と指示を出すとフーカがジャンプしてケージに入り、ついに成功した。この日のツカサの日誌には、フーカへの思いが書かれていた。「フーカは日々頑張っているので自分も負けないくらい頑張らなきゃいけないなと思いました」。 こうした訓練から得られる成果として鋒山さんは「忍耐力という意味では自分のことではないからこそ頑張れる。犬の訓練をしているひとつの意味」と語った。 「自分は優しくなれたと思う。結構怒りっぽかったり、もともと表情豊かではないので、反応をあまりしないけど、最近先生から『笑顔が増えたね』と言われるようになって。イライラすることが少なくなって、変わったのかなと自分で感じる」(ツカサ) 「当初は、些細なことでどうしても感情が大きく波を作ってしまってイライラしがちだったけれども、波が穏やかになってきている。本人が実感している『優しくなってきている気がする』というのは、あながち間違っていないと感じる」(ツカサの担任教官・阿部さん)