年金制度の安定性・信頼性を高める改革への期待:「在職老齢年金制度」、「第3号被保険者制度」の見直しで人手不足緩和も
変わる高齢者の定義
5月23日に開かれた経済財政諮問会議では、民間議員から、健康寿命が長くなっていることを踏まえ、政府の高齢者の定義について5歳延ばすことを検討すべきだ、との指摘がなされた。政府は高齢化率などを計算する際に、65歳以上を高齢者としている。世界保健機関(WHO)でも65歳以上を高齢者と定義している。 昭和57年に制定された「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年法律第80号)では、65歳以上を高齢者とした上で、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と分けて定義した。 この法律が制定された昭和57年時点では、65歳以上の高齢者の割合は全体の10%に満たなかったが、令和5年(2023年)には29.1%まで上昇している。また、この間に平均寿命は男女とも7歳以上延びていることから、65歳以上を高齢者とする定義には違和感を持つ人が増えてきている。 ただし、政府が正式に高齢者の定義を変えなくても、雇用や年金支給などでは、事実上、高齢者の年齢は既に引き上げられていると言えるだろう。少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されている。ここで、事業者は、65歳までの雇用確保を義務づけられるとともに、70歳までの就業確保が努力義務となった。
財政検証では保険料納付期間の5年延長の影響が試算される
厚生労働省は、公的年金財政の健全性を5年に1度点検する「財政検証」を今夏に公表する。政府はこの財政検証の結果を踏まえて、年金制度改正案を年末までに詰め、2025年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。 厚生労働省は4月16日に、財政検証の案(オプション試算)として、5つの内容を示した。1)被用者保険の更なる適用拡大、2)基礎年金の拠出期間延長・給付増額、3)マクロ経済スライドの調整期間の一致、4)在職老齢年金制度の見直し、5)標準報酬月額の上限見直し、である。 こうした制度見直しが、すべて2025年の年金制度改革に反映される訳ではない一方、その他の見直しが年金制度改革に含まれる可能性もある。 先ほどの高齢者の定義見直しに関連する点で言えば、2)基礎年金の拠出期間延長・給付増額は、保険料の支払い年齢を引き上げることで、年金財政の改善を図る施策になり得る。