年金制度の安定性・信頼性を高める改革への期待:「在職老齢年金制度」、「第3号被保険者制度」の見直しで人手不足緩和も
国民年金(基礎年金)保険料の納付期間を65歳まで延長する案
国民年金(基礎年金)保険料の納付期間を、現行の「60歳になるまでの40年(20歳~60歳)」から「65歳になるまでの45年(20歳~65歳)」へ5年延長するかどうかが焦点となる。延長すればその分、将来受け取る年金額は手厚くなる。2024年度の国民年金保険料は月額1万6,980円で、40年間納付した場合には月約6万8千円を受け取ることができる。これを5年延長した場合は、単純計算では12.5%増の月額約7万6千円に受取額は増える。 延長論の背景には、60代以降も働く高齢者が増えているという実情がある。政府の資料によると、60~64歳の就業率は2015年が62.2%だったのに対して2022年には73.0%へ上昇した。平均寿命が延び、働ける高齢者に保険料を納めてもらうことが、年金財政の改善につながるのである。 ただし、保険料の納付期間延長は、国民年金に加入する自営業者や、60歳以降は働かない人達にとっては負担が増すという問題がある。現在の保険料を基に機械的に計算すると、保険料は5年間で計約100万円増える。 高齢者の流れを受けて、基礎年金の支給年齢は既に原則65歳となっている。納付期間もこれに合わせて65歳とするのは自然だろう。ただし、負担増となる人には一定程度の配慮は必要となるのではないか。
高齢者の労働を促す「在職老齢年金制度」の見直し案
今までの年金制度改革は、大幅に悪化した年金財政の改善を通じて、年金制度の安定性、信頼性を高めることに大きな狙いがあった。また、将来にかけての給付額削減に歯止めをかける狙いがあった。 しかし今回の改革では、深刻な人手不足への対応という全く別の要素が加わっている。その分、難易度は増している。この点を踏まえた見直し案が、4)在職老齢年金制度の見直し、そして、財政検証の5つの案(オプション試算)にはないが、第3号被保険者制度の見直しの2点だ。 「在職老齢年金制度」のもとでは、賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超えると年金が減額となる。そのため、いわゆる「働き損」を避けるために就業時間を調整する高齢者が少なくない。これが高齢者の労働供給を阻み、人手不足を深刻にしている面がある。 この点から、「在職老齢年金制度」の見直しは必要と考えられるが、一方で、見直しは年金給付額の増加をもたらす。それは年金財政の悪化と将来の給付の抑制につながってしまう。在職老齢年金制度は廃止した場合、将来の給付水準が減ることが2019年の試算で示されている。 こうした課題も考慮に入れて検証を行い、慎重に判断していくことが求められる。