ティモシー・シャラメはいかにボブ・ディランを演じたのか? 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』独占インタビュー
ティモシー・シャラメが主演を務めるボブ・ディランの伝記映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が本日12月25日より全米公開スタート。日本では2025年2月28日より公開される。シャラメはどのように若きボブ・ディランへと変身したのか? 彼と共演者たちが製作の舞台裏を余すことなく語った。 【写真ギャラリー】ティモシー・シャラメ独占撮り下ろし
5年間もの徹底した準備
彼は今日、北の国を旅している。カナダから80マイル離れ、国境では風が強く吹く地だと言われている。レンタルしたトヨタのピックアップトラックが木陰にある郊外の交差点に差し掛かると、彼はエンジンを止め、1月下旬の空気の中に飛び出した。ダウンジャケットをグレーのスウェットの上に羽織り、フードは潰れた茶髪の上にかぶさっている。彼の目的地は、角にあるクリーム色の、箱型の小さな家だ。二つの低木に縁取られた歩道の先にある。その左手には新しげな道路標識が立つーーボブ・ディラン・ドライブ。 彼はこの1時間20分、凍結したハイウェイ53号線を通り抜け、ダルースとミネソタ州ヒビングの間を、少なくとも2つの主要ハリウッド・フランチャイズの保険会社が向精神薬を求めて奔走するほど右往左往してきた。しかし、ティモシー・シャラメには使命があり、この巡礼は彼の最終探究の一つなのである。彼には若き日のボブ・ディランをスクリーンで演じるため、4カ月の準備期間があるはずだった。蓋を開けると、パンデミックとハリウッドのストライキの影響から彼には5年の年月があった。その結果、全てかなりのところまで来てしまった。彼はディランについてほぼ何も知らない状態から始まり、最終的には自称 「ボブ教会の熱心な弟子」として、アウトテイク(1963年の 「Percy’s Song」はクセになる)やディランの非公式YouTubeチャンネルにまで言及するようになった。「僕は準備を、限界を押し広げなければならなかった」と彼は筆者に言う。「ほぼ心理的に『押し広げた』と実感できるまでにね」。 彼はボーカルコーチ、ギターの先生、方言コーチ、動作のコーチ、そしてハーモニカ奏者とも共に励んできた。ある時、ディランの歌詞を紙に書き、自室の壁に貼ったこともあった。シャラメは歌のレッスンにアコースティック・ギターを持参し、時々何の前触れもなくディランの声で話しながら現れる。映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』では、シャラメが全曲を生で歌い、演奏する様子を聴くことになる。「スタジオでは再現できないものだ」と彼は主張する。「事前に録音されたものに合わせて歌う場合、突然、僕の声は腕の動きが欠けているように聴こえるんだ」。 シャラメはキッド・カディを崇拝して育ち、「死に物狂いでラップへの憧れ」を抱いていた。彼は現在もまだ熱心なヒップホップ・ファンだが、今は脳の配線を大きく変更しグレイトフル・デッドにハマり始めている。そして、シャラメは他の映画を撮りながらも完全に「ボブの世界」から離れることはなかった。彼の携帯電話には『DUNE/デューン 砂の惑星』のセットでポール・アトレイデスの銀河系パジャマを着ながら「くよくよするなよ(Don’t Think Twice, It’s All Right)」を歌っている動画と、ウィリー・ウォンカの衣装でギターを弾いている写真がある。