ティモシー・シャラメはいかにボブ・ディランを演じたのか? 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』独占インタビュー
シャラメとエル・ファニングの信頼関係
エル・ファニングは3歳の頃から演技をしているが、リハーサルにこれほど興奮したことは今までなかった。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の制作準備中に、アシスタントが彼女にある週のスケジュールを送り、マンゴールドやボブ・ディランとのリハーサルについて軽く触れていた。「『なんてこと!』って思ったわ」と彼女はZoomで青い目を輝かせながら語った。10月の日曜日の午後、彼女はヨアキム・トリアー監督との映画撮影の休日で、ノルウェーのホテルの部屋でくつろいでいた。「何を言うか、何を聞くかを考えて、服を選んでいました。『今日はボブ・ディランに会うんだ!』と」。 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』の製作者は、この映画がまったく新しい世代のディラン信奉者を生み出すことを期待していたが、信じられないことに、すでにSNSでは『Bob-is-babygirl』としてディランの熱狂的Z世代ファンがいる。しかし、26歳のファニングは彼らよりずっと先を行っていた。彼女は13歳のとき、映画『幸せのキセキ』のセットで脚本家兼監督のキャメロン・クロウからディランの音楽を紹介されて以来のファンだ。「中学生のとき、毎日手のひらに『ボブ・ディラン』と書いていました」と彼女は話す。ディランの初恋の相手を演じるのは、彼女にとってかつてないほど完璧な出来事だった。「まるで私がこの役を実現させたみたい」。 その日、憧れの人物に会うために心構えをしていたファニングがドアを開けると、そこには髭を生やした威厳ある風貌のマンゴールドが立っていた。彼の隣にはティモシー・シャラメがいた。他には誰もいない。混乱の理由は単純だった。役への没入感を高めるため、シャラメは制作の資料に「ボブ・ディラン」として記載されていたのだ。「ティモシー・シャラメとのリハーサルでがっかりした人はおそらく、私が初めてでしょう。史上初のがっかりした女子だと思うわ」とファニングは話す。 確かに本物のディランは撮影現場にはいなかったが、『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』に関わっており、パンデミックの間、彼はロサンゼルスでマンゴールドと何度か会議を開き、最終的に脚本を一行ずつ読み進めた。「ジム(マンゴールド)は注釈付きのボブのスクリプトをどこかに置いているんだ。彼にそれを欲しいと懇願しても、彼は絶対僕に渡さないだろうね」とシャラメは話す。 マンゴールドは「ボブはただ私が何をしようとしているのかを知りたかっただけだと感じました。『この男は誰だ? ろくでなしなのか? ちゃんと理解しているのか?』と。 誰かに何かを任せる時に、誰もが尋ねる普通の質問だと思います」と話す。 マンゴールド自身は直接語らなかったが、ディランは2011年に亡くなったニューヨークでの最初の恋人、スージー・ロトロの本名を映画で使わないように望んでいた、とファニングは聞かされたと話している。彼女は芸術家であり活動家であり、ボブ・ディランに左翼政治を紹介し、「くよくよするなよ」をはじめとする多くの曲にインスピレーションを与え、彼の2枚目のアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のカバーでは彼の腕に寄り添っている。ディランの目には、ロトロは「とても内向的な人で、こんな人生を望んだわけではない。彼女は明らかにボブにとってとても特別で、神聖な存在だった」とファニングは語る。別れてから60年近く経った今でも、ディランはかつて「生涯で夢の恋人」と呼んだ女性を守り続けている。 映画の中ではシルヴィ・ルッソと改名されているが、彼女のストーリー展開は劇中で最もフィクション化されていない部分の一つだ。彼女がディランに改名と秘密主義を問い詰めるシーンは、ロトロが2008年に書いた回想録『グリニッチヴィレッジの青春』(原題:A Freewheelin’ Time)の内容と一致している。ディランはある喧嘩の場面で、自身のキャラクターの台詞を自ら脚本に書き加えた。「『二度と戻ってくるな』みたいな内容でした。」とファニングは言う。「喧嘩は本当にあったことだと分かっているので、彼は何かを思い出したか、彼女に言ったことを後悔していたのかもしれません」(映画の中で、ルッソは「謎の音楽家と暮らすために」ヨーロッパ旅行から帰国するという考えに失望するが、最初のアルバムが失敗したディランは「その音楽家はレコードを1000枚以上売る。君は二度と戻ってこなければいい」と言い返す)。 ファニングの深い感情がこもった演技によって、ディランとルッソの関係が映画の感情的な中心に据えられ、フェンス越しの美しい別れのシーンも完成した。このシーンは将来、映画の魔法としてモンタージュになりそうだ。ディランがタバコ2本に火をつけ、1本をルッソに渡すシーンは、1942年のベティ・デイヴィスの名作映画『情熱の航路』の有名な場面を彷彿させる。ファニングとシャラメはそれぞれ、撮影前夜にこの映画を鑑賞した。ファニングは「ティミーは映画を見て泣いていました。私は『泣いたの?! 感傷的なのね!』って感じだった」と話す。 彼女自身は、撮影現場でシャラメが歌うのを初めて聞いたとき、思わず涙を流したという。「私たちは観客席にいて、たくさんのエキストラたちに囲まれて座っていたの」と彼女は思い出す。「ジム(マンゴールド)はティミーを登場させて、コンサートをしてくれた。彼が『戦争の親玉(Masters of War)』と『はげしい雨が降る(A Hard Rain’s A-Gonna Fall)』を歌って、私は『噓でしょ』と思ったわ。今聴いていることが非現実的すぎて、私たち全員が震えていた。とても完璧で、決して物まねではなかった。それはティミーであり、でもボブであり、美しい融合だった。感動で鳥肌がたったわ」。その後、彼女はエキストラの何人かがシャラメが口パクしているかどうか議論しているのを耳にした。「私は彼らの肩をたたいて、『彼は歌っているわ。私には分かる!』と言ったの」。 ※字数制限のため、続きはRolling Stone Japanのウェブにてご覧ください。 --- 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』 2025年2月28日(金)全国公開 出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリー 監督:ジェームズ・マンゴールド 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (C)2024 Searchlight Pictures. All Rights Reserved. 『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』オリジナル・サウンドトラック ・デジタル配信中: ・2025年1月24日アナログ輸入盤発売予定 ・2025年2月28日国内盤CD発売予定
BRIAN HIATT