予防接種は“活動的な会社員”が効果的!? 新型インフルエンザ対策
通常の季節性インフルエンザの予防接種は毎年10月中旬から始まるが、新型インフルエンザなどの未知の感染症の大流行の際にはワクチン製造が間に合わず、予防接種を受けられる集団も限られる。政府は医療関係者や公務員、高齢者や特定疾患保持者などに優先にしてワクチンを接種する方針だが、むしろ「会社員などの活動的な集団に優先接種する方が、住民全体の感染予防に効果的だ」とする研究結果を、統計数理研究所と東京大学医科学研究所のグループがまとめた。
調査結果は「会社員に優先接種が効果的」
研究グループは多数のコンピューターで並列計算し、ワクチン接種による集団免疫の効果をシミュレーションした。首都圏内の人口122万人の都市を想定し、住民一人一人の鉄道5駅を利用した移動や学校、会社、商店などでの行動パターンを考慮して、ウイルスの感染動向を調べた。 ワクチンを接種しない場合の感染割合(感染力)を30%に設定し、優先接種の集団として会社員、在宅者、ランダム選択の3通りで試算した。その結果、流行開始から1カ月間にすべての会社員に優先接種した場合、非接種者が6カ月後に感染する割合は7%にとどまり、ランダム接種の場合の約20%、在宅者接種の場合の約30%よりも、非接種者への波及効果が小さいことが分かった。学校と会社、家庭での感染割合を比較しても、いずれも会社員に優先接種するのが最も有利な結果になったという。 会社員や学生などの活動的な集団は、他者との接触機会が多く、ウイルスに感染した場合には、多くの二次感染を引き起こす可能性がある。その集団へのワクチンの優先接種によって、地域全体の感染割合を下げ、高齢者や特定疾患保持者などの高リスク者の重症化や死亡率も下げることができるかもしれない。
”つぶやき”などのビッグデータの研究も必須
研究グループによると、今回の研究はウイルスの毒性が弱く、社会活動の維持と流行抑制のバランスを取ることを課題に想定しており、感染者数の推移をみても、ワクチンだけではウイルスの感染経路を早期に絶つことはできない。このため「強毒性の場合は、選択的自宅待機や鉄道の運行停止などの緊急避難的な対策と組み合わせ、ウイルスの早期絶滅を実現するのが課題だ」と指摘する。 今回のシミュレーション技術についても、実際の流行予測に使うためには、過去の流行パターンや流行したウイルスの種類などのデータを参照し、さらに改良が必要だ。これからは、薬剤販売量やツイッターの「インフルエンザ」を含む“つぶやき”数などといった、ビッグデータを予測向上に役立てる研究も必須になると話している。