造船所に駆け込み注文?変わりゆく船づくりの規制とは
国内造船所では先月末、サイバーセキュリティーに関するIACS(国際船級協会連合)新規制の適用が今月から始まるのを前に、同規制による船価増を見越した数十隻規模の駆け込み受注があったようだ。造船所としては同規制対応に伴う建造コストの増加分、船価を引き上げざるを得ない。しかし現時点では規制の細則が不透明なことに加えて舶用品の価格高騰もあり上げ幅が見通せないことから、船主の理解を得て、抱えていた新造案件のうち、同規制適用前の先月末までに契約を前倒ししたケースが複数あった。
近年、船内通信環境の改善をはじめとする船舶のデジタル化が進む。乗組員や旅客の居住環境向上をはじめ、人材不足解消に向けた少人化への対応もあり、海上での通信環境の改善・船舶のデジタル化が求められている。
一方、海上環境へのデジタル化の波は陸上に比べはるかに遅れて到来しており、デジタル化に伴い必要となる、使用者のサイバーセキュリティー対策の意識も低いのが課題だ。船舶のさらなるデジタル化に向けて、一層のサイバーセキュリティー対策が求められている。
これらの状況を鑑み、IACSは2022年4月、サイバーセキュリティーに関する統一規則(UR)2件を発効した。UR E26は船全体、UR E27は船上のシステムや機器を対象に、サイバー攻撃の脅威に対し、これを予測し、耐え、そこから回復・適応する「サイバーレジリエンス」の最低限の準備が求められる。
これらの新規制は、今月1日以降に建造契約を締結する新造船を対象に、既に適用が始まっている。
一方、現時点では各船級が同規制の詳細な内容を明らかにしておらず、搭載すべき機器やこれにかかる費用などが不明なことから、同規制への対応にかかる追加コストが全く予想できないとの声もある。
「顧客との調整の上、可能な限り、6月末までに契約できるよう尽力した。7月となり同規則の適用が始まったが、船価をどの程度上げなければならないかはいまだ不明。7月以降の契約船は機器搭載や引き渡しまである程度は時間が空くため、まずは細則を待つ」(国内造船所関係者)