半導体メモリー大手キオクシアには「前門の虎、後門の狼」に…上場後に待ち受ける“2つの難題”(小林佳樹)
【経済ニュースの核心】 半導体メモリー大手キオクシアホールディングス(旧・東芝メモリ)が12月18日に上場する。時価総額は7500億円規模となる見込みだ。調達資金は、生成AI(人工知能)の普及で需要が高まるデータセンター向け最先端半導体メモリーの増産投資に充てられる。 中国が牛耳る生成AIの技術開発…特許申請件数は米国の6倍と国連機関が公表 キオクシアは当初、10月までの上場を目指したが、株価やメモリー市況の悪化を受けて先延ばしとなっていた。今回、メモリー市況も来年から回復すると判断し、年内の上場に踏み切ることにした。 時価総額は当初見込んだ1兆5000億円規模から大幅に減るが、上場を優先した。同社株式の56%を保有する米投資ファンドのベインキャピタルや、41%を持つ東芝が一部を売却するとみられる。 キオクシアは北上工場(岩手県北上市)の新棟を2025年秋に稼働する計画で、先端品の半導体開発・製造には多額の資金が必要となる。上場することで銀行借り入れ以外にも資金調達手段を広げたい考えだ。 だが、今回の上場に対する市場の見方は厳しい。「キオクシアは4年前の20年に東京証券取引所に上場を承認されていたが、米中の貿易摩擦の激化で、不透明感が強まっていることなどを理由にIPO(株式公開)を延期した経緯がある。当時の時価総額は1.7兆円だった。時間をロスしたうえに、調達金額は半分にも満たない」(大手証券幹部)というのだ。背景には「韓国半導体大手」と「トランプ大統領復帰」という2つの大きなリスク要因がある。 もともとキオクシアは、東芝の半導体事業の会社だったが、米原発子会社ウェスチングハウスの破綻で追い詰められた東芝が、虎の子の半導体事業を「東芝メモリ」として分離独立させたのは17年4月。その後、18年6月に米投資ファンドのベインキャピタルが主導するコンソーシアム(企業連合)に総額2兆円で売却され、19年10月にキオクシアホールディングスに社名を変更した。 このコンソーシアムには韓国の半導体大手・SKハイニックスも参加しており、キオクシアの株式を間接的に保有している。 「SKハイニックスは、春先から生成AI向けに需要が急増している次世代半導体メモリーを日本で生産する協業をキオクシアに働きかけており、上場を急がせた」(市場関係者)とみられている。 ■3番目の株主に浮上 SKハイニックスはベインキャピタルの特別目的会社を通じて新株予約権付き社債を保有しており、上場後に株式に転換されると14%を出資する3番目の株主に浮上する。その後、キオクシアの株を買い増し、買収も可能だ。 さらに、米大統領選でトランプ氏が勝利し、米中貿易摩擦が激化し、半導体市場への影響は避けられないとみられている。「トランプ政権へ移行する来年1月20日前に、上場しておいたほうが得策との判断があった」(市場関係者)とされる。まさに“前門の虎、後門の狼”。キオクシアは上場後も難路が続く。 (小林佳樹/金融ジャーナリスト)