部下の納得感と安心感を醸成―― 「フェア・マネジメント」でメンタルヘルス対策を
「適切な」メンターの選任が重要
――制度面で人事が取り組めることはありますか。 職場の心理的安全性を高めるために有効なものとして、メンターの存在が挙げられます。上司がフェアで信頼できる人だと感じていても、評価者である上司に自分の悩みや弱みをさらすことにはどうしても抵抗を感じる社員も少なくありません。その場合、気軽に相談できる先輩、メンターの存在は重要です。特に、新しく組織に入った社員の不安は大きく、その分、初めて密に接する先輩社員の影響はとても大きくなります。まさに、「朱に交われば赤くなる」のことわざ通り、メンターの会社・仕事に対する考えが、職場や仕事に対する第一印象として、その後も根強く作用します。 ただし、注意しなければならないのは、メンターには向き不向きがあるということ。向いていない人をメンターにつけては逆効果です。入社2~3年目の社員を自動的にメンターにする会社も多いようですが、新入社員らを心理的・キャリア的に支援するというメンターの役割は意外と難しく、それなりのセンスとやる気が必要となります。それでも職場に一人はメンターにふさわしい人がいるものです。 私たちが行った介入試験では、職場で一番メンターにふさわしい人を一人選んでもらい、複数のメンティーを担当してもらいました。もちろん、メンターの負担を軽減するため、通常業務の一部を削減したり、メンターとしての活動を評価制度に組み込んだり、懇親会のための手当を出したりと、メンターへの支援も行われました。 その結果、メンターの知識や経験を通じてメンティーのスキルや知識が向上するとともに、上司以外にもメンターからのフィードバックや励ましを受けることで、自信やモチベーションが向上しました。特に、職場内の状況をよく知っている同じ職場のメンターからメンタル面のサポートを受けることはとても効果的で、この職場の早期退職者の数は有意な減少を認めています。 最近の研究でも、適切なメンタリング制度は、メンティーの成長だけでなく、組織内のコミュニケーションや協力を促進し、職場の文化を改善する効果があると報告されています。また、メンター自身もメンティーの指導を通じてリーダーシップスキルを磨くことができ、メンタリングは組織全体のリーダーシップ強化にも寄与することがわかりました。