食事の配膳の手伝いは「時間感覚」が育つ。お手伝いを通じて行う【発達障害児の療育】を専門家がレクチャー
なぜ子どもは遅刻しそうでも急がないのか
この連載では、発達障害のある子どもの療育に長年携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「配膳をする」です。 「いつまで寝てるの?遅刻するわよ」 予定があるのになかなか動かない子どもに悩む保護者は多いです。 なぜそうなるのでしょう。 理由のひとつは「時間感覚がないこと」です。4~5歳になると「昨日、おばあちゃんちに行ったよ」などというので、時間感覚があるように思いがちですが、実は子どもの時間感覚はかなり曖昧です。 大人は時間感覚があって先を見通せるので、遅刻するから早く支度をしなくてはいけないと思います。しかし時間感覚が曖昧な子どもにとって未来はよくわからないもので、とにかく「今」がすべてなのです。だから「間に合わせるためには~しなくてはいけない」と思わない、だから急がないのです。 ■子どもが時間の概念を獲得するまで 子どもは次のような段階を経て時間の概念を獲得していきます。 4~5歳:「昨日」がわかるようになる 5~6歳:「昨日」「今日」「明日」曜日がわかるようになる 6~9歳: 1週間~2週間などがわかるようになる 9~12歳:1年先くらいを見通せる力がつき、先のことを考えはじめる 大人と同じ時間感覚を獲得するのは9~10歳ころと考えていいでしょう。 ■未来を意識することで、「今」の計画を立てる 未来がイメージできることは大切です。未来を意識することで、未来の目標から逆算して現在の計画を立てることができるからです。 例えば1か月で英単語を100個覚えるとします。1か月や1日がイメージできるからこそ、1日でこれくらい、1か月だとこれくらいできそう。う~ん100個は無理かな、1日の量をもう少し増やしたらいけるぞ、といった算段ができるのです。 ■さまざまな経験が時間感覚を養う 子どもはさまざまな経験をする中で時間感覚を獲得します。「“もうすぐ”運動会だね」、「運動会のあと“少ししたら”お遊戯会だよ」、「ゆり組さんがおわったら“すぐに”みんなの出番だよ。準備はいい?」 自分にとって印象的なできごとの中で、「もうすぐ」「少ししたら」「すぐ」などのことばと自分の時間の感覚が結びつく経験をすることで、子どもは時間感覚を養っていきます。 日常生活の中でも、「帰ったら“すぐに”手を洗うのよ」「ご飯が終わって“しばらくしたら”お風呂に入ろうね」など、時間感覚につながる経験はたくさんあります。 そして学童期になると学校生活の中で、時間管理や計画をする機会が必然的に多くなり、少しずつ大人に近い時間感覚が持てるようになります。 ■時計やカレンダーで時間を理解する 5歳頃からは、時計やカレンダーを使って時間を理解する能力が発達します。時計の読み方や、1時間は60分、その半分は30分などの時間の感覚が育ち、時間に基づいて行動できるようになります。 ■自閉症スペクトラム障害の子どもの時間感覚 自閉症スぺクトラム障害の子どもは、経験に基づいての時間感覚が育ちにくい、定型発達の人に比べて時間の捉え方が特徴的である、という研究があります。(出典:Central tendency effects in time interval reproduction in autism Themelis Karaminis らの研究) だとすれば、自閉症スペクトラム障害の子どもに、「急ぐ」「計画的に行動する」ことを求める時には、注意深い対応を要すると言えます。すなわち、個々の子どもの時間感覚の状況に基づいて、個々にわかりやすい工夫が必要なのです。 具体的にはスケジュールの可視化や時計、「あと一回」などわかりやすい目安を示すなどです。これらは時間感覚の未熟な幼児にも有効です。