さらば昭和の体育館 ジャパネット・三井不、娯楽×スタジアムで稼ぐ
モデルケースの一つになりそうなのが川崎市による「等々力緑地」(川崎市)の民間への運営委託である。等々力緑地にはJリーグの「川崎フロンターレ」が本拠地とする陸上・球技兼用スタジアムをはじめ、多数の公共スポーツ施設が並んでいる。 川崎市は川崎フロンターレなどが出資する特別目的会社(SPC)「川崎とどろきパーク」に対して、23年から30年間にわたり等々力緑地の運営と再整備を委託した。川崎市が支払う委託費は30年間で総額632億円。川崎市の富士見・等々力再編整備室の武田康孝課長補佐は「市が自ら運営・再整備する場合に比べて、財政支出を11.2%削減できる」と強調する。 再整備の目玉は、陸上・球技兼用スタジアムの球技専用化だ。観客席とピッチを隔てていた陸上トラックを撤去して、より近くからJリーグの試合を観戦できるようにする。このほかにも飲食店やVIPルームなどを充実させて娯楽色を強める。心躍るスタジアムに改修することで、より多くの人々が等々力緑地に集うことになる。 ●不動産や鉄道会社が投資 これまで公共のスポーツ施設といえば、「体育施設」という言葉が似合う無味乾燥な建造物がほとんどだった。地元住民の部活動や健康づくり、文化的生活の向上などを目的に整備され、娯楽という視点は欠落していた。 だが、川崎とどろきパークが整備する球技専用スタジアムをはじめとして、今やそうした常識は覆されつつある。例えば楽天ゴールデンイーグルスや広島カープの本拠地は民間が整備・運営しているものの、実は地元自治体が所有する公共のスポーツ施設だ。 「公共のスポーツ施設であっても娯楽性を追求してよい」というように、マインドセットを転換した自治体が、着実に増加している。 企業もその経済効果に期待して、積極的にスポーツ施設の整備・運営プロジェクトに参加するようになった。例えば川崎とどろきパークの筆頭株主は東急だ。等々力緑地に集う人が増えれば、近くに駅を構える東急電鉄の乗客が増え、駅周辺の東急ストアなどの商業施設の利用も増える。 MIXIが24年5月に千葉ジェッツふなばしのアリーナをオープンさせるに当たっては、三井不動産が整備プロジェクトに参加した。三井不グループはアリーナの隣で大型商業施設を経営しており、相乗効果で集客力のアップを狙う。21年に東京ドームを買収しており、スポーツ施設経営に積極的だ。5万人規模のスタジアムを中核とした築地市場跡地(東京・中央)の再開発も、三井不を中心とする企業連合が手掛けている。 DeNAが28年にオープンさせるアリーナは京急川崎駅(川崎市)の隣接地に整備する。このプロジェクトには京浜急行電鉄が参加している。 EYストラテジー・アンド・コンサルティングでスポーツビジネスを担当する岡田明パートナーは、「日本でもようやくスポーツ施設に対するきちんとした投資が始まった。成長の余地は大きい」と分析する。 未開拓地がたくさん残るスポーツ施設市場が目の前に横たわっている。今こそ参入のチャンスだ。 (次回に続く)
吉野 次郎