暴行、給与現物支給…「アットホーム」標榜の裏に潜んでいた凄惨いじめ 踏切自殺強要事件
昨年12月、東京都板橋区の踏切で、自殺を強要された塗装工の高野修さん=当時(56)=が列車にはねられて死亡した事件。高野さんと容疑者4人の接点は、佐々木学容疑者が経営する「エムエー建装」(東京都小平市)で同僚だったことにある。周囲からは気さくな人柄で知られていたという佐々木容疑者。同社のホームページ(HP)では従業員同士が親密な職場だとうたっていたが、内実は高野さんに対する凄惨ないじめが横行していた。 【表でみる】東京都板橋区の踏切で高野修さんが死亡するまでの経緯 ■フランクな社長 捜査関係者によると、高野さんが同社で働き始めたのは平成26年ごろ。それ以前に作業現場で佐々木容疑者と知り合い、誘われるようにして同社で働き始めたという。 佐々木容疑者について、自宅近くの住民は「家の前で子供とよくキャッチボールしていた。見た目はこわもてだが、あいさつするとフランクな印象」と語る。別の住民は「よくワンボックスカーに乗った人が集まってバーベキューしていた」と、仕事関係とみられる人を集めて交流する姿を目にしていた。 ■アットホームの裏で 「社員同士が仲が良く、アットホームな雰囲気の職場です」 高野さんを取り巻く職場環境は、そんなHPの文言を裏切るものだった。給与からは会社が借り上げたアパートの家賃が引かれ、「大人が1カ月暮らせる額ではない。生活保護を受けた方がいい状態だった」(捜査関係者)。高野さんは交通費にも事欠き、しばしば徒歩で作業現場に向かった。勤務終盤には、給与は現金から食料による〝現物支給〟に変わったという。 高野さんにとって、自宅も休息の場にはなりえなかった。容疑者らのスマートフォンには、居室で笑いながら高野さんに暴行を加える動画や画像が残っていた。容疑者らは急に訪れることもあり、部屋はいつも無施錠に。中には尻に棒を突っ込むなどの行為もあったという。 高野さんは死亡する約2カ月前に同社を退職したが、会社が借り上げたこのアパートを離れることはできなかった。事件直前、容疑者らが訪ねたときも、部屋の鍵はかかっていなかったという。(内田優作、前島沙紀、梶原龍)