インフルエンザが喉スプレーで防げるようになる日、研究進む微小チューブ
インフルエンザウイルスを捕捉するたんぱく質微小チューブの研究が進んでいます。すべての型のインフルエンザウイルスに対応可能で、同チューブを用いた喉スプレー予防薬などへの応用が検討されており、従来のワクチンと併用すれば予防効果をさらに向上できる可能性があるといいます。この研究成果は昨年11月、日本化学会が発行する英文学術論文誌「ケミストリー・レターズ」に掲載され、「エディターズチョイス」(優秀論文)に選ばれました。
研究を進めているのは、中央大学理工学部の小松晃之教授と慶応大学医学部の石井誠講師です。この技術は、喉に噴霧するインフルエンザ予防薬への応用を想定しています。同ウイルスは気道の粘膜から感染しますが、このチューブを含んだ薬剤をスプレーすれば、入ってきた同ウイルスをチューブが捕獲して感染を防ぐ、という利用法が考えられます。
微小チューブはバウムクーヘンのよう
たんぱく質の微小チューブは、外径が約0.8マイクロメートル(1マイクロは1000分の1ミリ)、内径が約0.4マイクロメートル、長さ約15マイクロメートル。バウムクーヘンのような形状をしており、チューブの壁は、たんぱく質やアミノ酸の層が交互に重なっています。 一番内側につくられた糖たんぱく質の層には、インフルエンザウイルスの表面にあるたんぱく質と結合しやすいシアル酸が含まれており、チューブの中に入った同ウイルスはシアル酸の働きによって吸着される、というわけです。
インフルエンザウイルスを100%除去
実験では、約25万個のインフルエンザウイルスが入った0.5ミリリットルの水のなかにチューブを0.6ミリグラム(2500万本分に相当)混ぜてから、1、2分後に遠心分離機にかけて上澄み液を確認したところ、同ウイルスを100%除去できていたそうです。 小松教授は、「私たちの生活と健康を守る上で魅力的なテーマだと考えた」と本テーマを選んだ理由を語ります。チューブで細菌やウイルスなどを吸着する研究は、約6年前から開始。過去、ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)や大腸菌の捕捉にも成功しています。 石井誠講師も「小松教授のアイデアは興味深い」と評価。予防効果を高める上で従来のワクチンとの併用も有りうるとしています。従来の不織布マスクなどの内部にチューブを埋め込んで、くしゃみやせきの際に出る飛沫の中の同ウイルスを吸着させて感染の拡大を防ぐ、という利用法も検討しています。
おおむね5年で製品化が可能と予想
研究チームは今後、どの程度の分量でどの程度の効果があるのかなど、効果の検証などに取り組む予定です。 現状、研究室ではポリカーボネート製フィルタの微小な穴にたんぱく質などの層を作って、最後にフィルタを薬剤で溶かしてチューブを取り出す、という方法で作製します。 小松教授はシンプルな作製法であるため、大量生産にも移行しやすいと考えています。人体に含まれるたんぱく質などを材料に使っているので、今後の検証が必要ですが安全性も高いと予想します。実用化がもっとも早いのがマスク、ついでスプレー薬と見ていますが、いずれも、おおむね5年で製品化が可能と予想しています。 (取材・文:具志堅浩二)