人生100年時代でも、健康寿命は非常に短い。延ばすためには、脚力と血管力の両方が必要。歩行速度の低下が、動脈硬化の増加に
◆脚力と血管力には親密な関連がある 歩行速度が落ちると動脈硬化が増える でも、はたして、それだけで十分に歩けるのでしょうか。 私たち愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターでは、2006年からアンチエイジング(抗加齢)研究を行っています。 具体的には、脳卒中や認知症など、老化にともなって増えるさまざまな疾患の発症を予防することを目的としています。 病気だけではなく、転倒、骨折などに直結する脚力の低下に関する研究も行っています。 さらに、脚力に関連する大切な要素として「血管力」があることを発信しています。 脚力を評価する指標としては、下肢のCT(コンピュータ断層撮影)画像を用いて足の付け根(鼠径<そけい>部)と太もも(大腿<だいたい>部)の筋肉の面積を測定します。 太ももの筋肉の面積が大きければ、筋力も高いと思われます。 一方、血管力は、血管年齢といいかえることができます。血管年齢は、おもに血管の柔軟性や弾力性を示す指標で、代表的な検査としては脈波伝播速度検査があります。私たちが運営する抗加齢ドックの検査項目としても導入しています。 そして、抗加齢ドックのデータを解析したところ、脈波伝播速度検査で「血管力が低い」(血管年齢が高い)場合には、「脚力が弱い」(太ももの筋面積が小さい)ことがわかり驚きました。
◆どちらか一方を鍛えても望む結果は得られない このことから、私たちの研究グループでは、現在も脚力と血管力についての研究を進めています。最近は私たちばかりでなく、世界中の研究者が脚力と血管力の相関関係を次々と証明しています。 とくに、脚力に関して、『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』のテーマである「歩く力」を直接評価する指標として用いられる「歩行速度」の低下が、血管力の低下(動脈硬化の進展)と関連するかどうかを高齢者を対象にした研究結果が、最近、報告されました。 この研究では、65~96歳までを対象とし、492人の地域住民における歩行速度と血管力の関係を調べています。血管力の指標としては、私たちの研究と同様の血管年齢検査が用いられました。 その結果として、「歩行速度の低下が、とくに下肢の動脈硬化の増加と関連している」ことがわかり、脚力と血管力の親密な関連が示されました(「フロンティヤーズ・イン・サイコロジー」2020年11月23日)。 このように、一生歩けるための脚力と血管力には密接な関係があり、どちらか一方だけを鍛えても望むような結果は得られません。どちらが先ではなく、「ともに」重要だと考えています。 ぜひ、みなさんには、脚力と血管力を同時に鍛えて、いつまでも自分の力で歩けるようになっていただければ幸いです。 ※本稿は、『百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
伊賀瀬道也