「男前な女性」が、おしりを叩いてくれたから出世できた⁉ 「気弱な男性」の処世術とは?【NHK大河『光る君へ』#21】
紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第21話が5月26日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。 【画像】NHK大河『光る君へ』#21
『光る君へ』に登場する女性キャラクターの多くは男以上に男前
平安時代において政は男のものとされていましたが、『光る君へ』においてもそれは同じです。女性キャラクターたちも政は男の領域であると理解しています。 とはいえ、本作に登場する多くの女性キャラクターは男以上に男前で、自分の足で立っており、決断力があります。こうした描かれ方からは平安時代において女が政を陰で動かしていた可能性、さらには女の存在がなければ別の歴史になっていた可能性も垣間見えるのです。また、女は政に不向きであると長らく考えられてきましたが、こうした先入観の誤りもうっすらと指摘されています。 本放送において、定子(高畑充希)が伊周(三浦 翔平)を捕まえようとやってきた検非違使の腰から刀を抜き、自ら髪を切り、「出家いたします」と宣言する姿は印象的でした。定子には今回の騒動の責任はないものの、兄が犯した罪の重さを理解し、生きることに絶望し、錯乱状態であったにせよ自ら下した決断です。心の落ち着きを少し取り戻した後も、自らの決断を静かにつらぬいています。 そもそも、定子は伊周が花山院(本郷奏多)に矢を放った事件について一条天皇に謝罪するなど、当初から問題と真摯に向き合い、誠意をもって対応していました。 一方、伊周は流罪を逃れようと逃走し、しまいには「病気だ」「出家する」などと、幼い子どものような嘘をつきます。母や妹が家の長でもある自分の浅はかな言動でどれほどまでに傷ついているか考えもせず、流罪を逃れ、都にとどまる方法ばかり考えています。ついには、母・貴子(板谷由夏)に「母も共に参るゆえ 大宰府に出立いたそう」と言わせるしまつ。それでも、伊周は少し前までは関白の最有力候補であり、道長がいなければ彼が臣下のトップになっていたでしょう。 伊周も定子の立ちまわりのよさや賢さを評価しており、「お前が男であったら」とこぼすシーンが過去にありました。定子の凛々しさや賢さ、兄をサポートする姿を見ていると、政でもうまくやっていけるのではと思えますよね。 道長(柄本佑)は幼い頃から権力に関心がなく、藤原家の子どもとしては珍しくおっとりとした性格です。 今でこそ、道長は国をよくするために懸命に働いていますが、それもまひろとの約束があるからです。 ーーー 「道長様は 偉い人になって 直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような よりよき政をする使命があるのよ」 『光る君へ』10回 ーーー 道長はまひろからこう伝えられる前は都を出て、まひろと遠くの国で暮らすことを願っていました。道長のまひろへのアプローチは乙女心をくすぐるものでしたが、自分の高貴な生まれとしての責任を果たそうとする気がないとも解釈できます。一方、まひろは道長と一緒に都を離れたいと思いつつも、現実的な暮らしや彼に定められた使命を思って、プロポーズを断っています。本放送では、道長は「恐らく 俺は あの時 お前と遠くの国へ逃げていっていても お前を守りきれなかったであろう」と、自身の弱さや無力さを認めています。 道長はまひろとの廃墟での約束の後、人の上に立って世を正すという使命を理解し、すぐにアクションを起こしていました。とはいえ、関白になることや出世にはあいかわらず後ろ向きで、詮子(吉田洋)の説得や後押しがなければ今の地位を逃すところでした。 (道長は出世にも関白にも興味がないと度々口にしていましたが、トップに立たなければ政を動かせない世界で、まひろとの約束をどう果たすつもりだったのでしょう) 最近の道長は臣下のトップとして政をリードしていますが、「これから どこへ向かってゆけばよいのかそれも見えぬ」と心に不安や迷いがあるようです。妻・倫子(黒木華)にも、姉・詮子にも言えない、まひろにだけ口にできる思いを抱えて我が道が模索する道長ですが、この純粋すぎて、お人好しの男はまひろを精神的支えにし、必ず開花するでしょう。