「男前な女性」が、おしりを叩いてくれたから出世できた⁉ 「気弱な男性」の処世術とは?【NHK大河『光る君へ』#21】
さわに普通女子が共感できるわけ
視聴者にとってテレビドラマのおもしろみの1つは登場人物と自分を重ねたり、共感したりすることですが、本作に登場する女性メインキャラクターは生まれ育ちがよく、才能に恵まれ、メンタルも強い人たちばかり。 私たち、いわゆる“普通の女性”が本作の登場人物の中で共感したり、自分と重ねたりできる数少ない存在はさわ(野村麻純)でしょう。 さわはまひろとの石山参詣で道綱(上地雄輔)に恋心を抱きますが、彼の心は自分ではなく、まひろ....。まひろと間違われて抱かれるという苦い経験もしています。 (好きな人が同性のステキな友人に恋心を抱いてることってあるあるですよね) また、彼女は偶然出会った寧子(財前直見)との『蜻蛉日記』の話に入れず、肩身の狭い思いを石山寺でしています。 (著名な作家に感想を端的に話せるまひろのような女性の方が珍しいでしょうね) さわのようにステキな女性でも「自分なんか必要ない存在だ」「私なんてこれといった取り柄もない」という思いを心ひそかに抱いている女性も多いはず。 自分にコンプレックスを感じたり、ハイスペの友人に嫉妬したりしつつも素直で、明るく、努力家のさわが多くの女性視聴者の心をつかんでいたことはSNSの投稿などにも明らかです。「さわの気持ちがわかる」「さわちゃんに共感できる。お茶したい」という声も多々ありました。また、さわは当時の女の幸せ(結婚)を最終的にしっかりつかんでいますから、胸をなでおろした視聴者も多いはず。 『光る君へ』は他の大河ドラマと比べて"女性ファン"が多いといわれています。少女漫画チックな展開、女性好みの美しい装飾や衣装、ユニークな言葉遊びだけではなく、時代に屈しない女性キャラクターのたくましさに鼓舞されたり、メンヘラ気質のキャラクターに共感したりといった精神的要素も女性視聴者の心をキャッチしているポイントといえるでしょう。 【前編】では、ジェンダー格差が激しい平安時代に生きた、賢い女性とどこか情けない男性を描いた♯21について解説しました。 ▶つづきの【後編】『なぜ平安貴族は「リッチな暮らし」ができたのか。藤原道長の総資産額は「数十億円」相当!?』では、貴族たちのマネー事情についてお伝えします。
アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗