なぜ「怪しい投資話」にカネを出してしまうのか…「ロレックス詐欺」の詐欺師が使った"人を信じ込ませる手口"
■事件化されていない投資トラブルも ――運営されているYouTubeチャンネルでは、事件化されていない投資トラブルについても警鐘を鳴らしていますよね。 はい、注意喚起のために、実際に調べてかなり確度の高いと思われる案件については、動画配信をすることにしています。 たとえば、ある投資会社は、「某有名会社の主幹事証券会社がついてるので、すぐに上場する」という趣旨のことを持ちかけ、多くの人に投資をさせたまま、まったく上場する気配がありません。要するに、今株を購入しておけば、近い将来において価値が何倍にもなる、という含みを持たせた投資案件ですね。 ちなみに主幹事証券会社とは、企業が新規株式公開(IPO)を行う際に証券業務を中心的にサポートする役割を担う証券会社のことで、簡単にいえば大手証券会社の“お墨付き”のことです。しかしここで名前の挙がった大手証券会社は、公式の声明において、そうした事実がないことを明言しています。 ■口座を凍結し、10億円の回収に成功 この投資会社に対しては、口座凍結のあと、民事裁判で争って勝訴判決を取り、預金を差し押さえる手法で戦いました。 具体的には、依頼主からの話を総合的に判断した結果、私はトラブルになっている投資会社が詐欺を行っている可能性がかなり高いと考えました。そこで、すぐさま口座凍結の申し立てを行いました。 口座を確認すると、関連会社を含めて合計10億円の資金がプールされていたことが確認できました。投資会社からは口座凍結について抗議され、凍結について損害賠償を請求する旨の連絡がありましたが、きちんと筋道を立てて口座凍結の理由を説明したところ、先方も納得した様子で、まったく連絡が来なくなりました。その後、凍結した口座の差押えを求める民事訴訟を起こして勝訴し、無事に10億円を回収することができました。
■本当に儲けられる案件なら、他人に勧めたりはしない ――詐欺の被害に遭わないためには、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。 徹底すべきなのは、「他人に自分のお金を預けない」ということです。その原則を貫けば、たいていの詐欺からは身を守ることができると思います。 月利3、4%などという高利をうたう投資話を信用しないようにしましょう。私のところに相談に来た方のなかには、月利10%という投資話を持ち掛けられたケースもありました。そもそも本当にそんなに美味しい商売なら、話を他人に持ちかけたりせずに自分でやるはずなんです。だから、基本的に世の中に美味しい話はないということを理解することが大切ですね。 それから、信用できそうな投資話だと思っても、投資会社のライセンスの有無を確認することが鉄則です。この際、海外のライセンスではなく、日本国内のライセンスを持っているか必ず確認するようにしましょう。 ■将来に不安がある人こそ、冷静に判断してほしい ――なぜ被害者は自分の資産を他人に預けてしまうのでしょうか。 よく言われるように物価は上昇しているのに、30年以上給与水準は変わっていません。税負担は重くなり、国民年金や社会保険に対する不安感が増大しています。したがって、自分の将来に不安を感じた方が、個人で資産形成するために投資をしよう――と考えるのはよく理解できます。 そして、それが健全な会社が行う投資であれば、損をすることはあり得るものの、当然ながら資産を増やせる可能性もあるわけです。 しかし投資詐欺の場合は、そうではありません。最初からあなたの財産を狙って仕組まれたスキームですから、確実に損をします。経済的な情勢が不安定な今だからこそ、冷静に物事を見極め、客観的な視点でその投資話がおかしくないか点検していただきたいです。 ---------- 杉山 雅浩(すぎやま・まさひろ) 弁護士 1978年生まれ。静岡県出身。上智大学法学部法律学科卒業後、弁護士法人V-spirits法律事務所代表弁護士を経て、東京、仙台に支店を持つ弁護士法人ワンピース法律事務所を開業。同社、代表役員弁護士として活躍中。離婚問題、残業代請求、相続問題、交通事故、企業法務、起業家支援など多岐にわたる。セナー事件、ジュビリーエース事件、OZプロジェクト事件等多くの有名投資詐欺事件の首謀者逮捕や被害金の回収に実績あり。詐欺撲滅YouTuberとして、活動中。詐欺に詳しい弁護士として、NHK、千葉テレビ、フジテレビ、日本テレビのスッキリ他、多数のメディアに出演。著書に、『身近に潜む詐欺 あなたはもう騙されている』(みなみ出版)がある。 ---------- ---------- 黒島 暁生(くろしま・あき) ライター、エッセイスト 可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。 ----------
弁護士 杉山 雅浩、ライター、エッセイスト 黒島 暁生 聞き手、構成=ライター・黒島暁生