なぜ「怪しい投資話」にカネを出してしまうのか…「ロレックス詐欺」の詐欺師が使った"人を信じ込ませる手口"
「怪しい投資話」に、なぜ人は騙されてしまうのか。詐欺事件を専門的に扱っている杉山雅浩弁護士は「被害者のほとんどが、友人からの紹介で時計ブローカーを名乗る加害者を紹介されていたため、安心して投資してしまった。騙されないためには『他人に自分のお金を預けない』ことを徹底してほしい」という。ライターの黒島暁生さんが聞いた――。(後編/全2回) 【画像】被害者の大半が借金をしてロレックスを購入。なかには自己破産を検討するケースも ■資産がない人には借金をさせてお金を振り込ませる (前編から続く) ――投資をめぐる詐欺事件やトラブルが発生しています。こうした事件は、経済力のある人が狙われるのでしょうか。 もちろん、投資詐欺に遭った人のなかには資産家もいます。ただ、全体の傾向としては、資産がある人がターゲットになっているのではなく、ごく普通のサラリーマン、学生、専業主婦などが被害に遭っています。 なぜなら詐欺師は「借金をしてでもこの投資のチャンスを逃すな」と刷り込むんです。詐欺師からすればお金を受け取れればいいので、被害者が借金をして作った金であっても関係ないのです。したがって「自分には資産がないから狙われることはない」と思うのは間違いで、借り入れなどによって詐欺の被害に遭うことがあると覚えておくといいでしょう。 ――前編では投資詐欺、副業詐欺が増えているとのお話がありました。詐欺のトレンドはあるのでしょうか。 基本的に“流行り廃りはない”と私は考えています。ただ近年、モノとしての商品ではなく、権利・役務を売る「モノなしマルチ商法」が増えてきた印象があります。有名なところでは、暗号資産で資産運用をしてあげると持ちかけられる話です。 このときに、「誰かを紹介すれば報酬が得られる」「商品を売った人がさらに新たな人に売ると、追加で報酬がもらえる」という、いわゆる使い古されたマルチ商法の手法が取り入れられているものは詐欺なので注意してください。
■計75億円が騙し取られた「ロレックス詐欺」 ――杉山弁護士のもとには「ロレックス詐欺」の被害者が多く相談に訪れたと伺いました。どのような事件だったのでしょうか。 高級腕時計の転売を持ちかけて購入させ、だまし取っていたとして、とあるウェブサイト運営会社の社長らが警視庁に詐欺容疑で逮捕された事件です。2019年年8月から2024年3月にかけて、40都道府県の約600人に腕時計計約3000本を購入させ、被害総額は約75億円に上ると報道されています。 手口としては、「中国に流通ルートを持っている」とする加害者らが「元金と利益の半分を支払います」と持ち掛け、被害者にロレックスを購入させたうえで預かり、そのまま逃げたというものです。被害者のほとんどが、友人からの紹介で「時計ブローカー」を名乗る加害者を紹介されていたため、安心して投資してしまったのでしょう。 たしかに、私の事務所には発覚している被害者の3分の1にあたる200人くらいが相談に来ました。これは、同じ手口で被害に遭った人たちが被害者の会のようなものを作っていて、その団体のトップが私のところに相談に来たのです。被害者の多くは被害金額でいうと数百万円ほどで、10人に1人くらいは1000万円ほどの被害金額だったと思います。まれに、被害金額が億単位に上る人もいました。 この事件の加害者は組織化されており、リーダー格が手下のブローカーをまとめあげて被害者たちに話を持ち掛けていました。被害額が大きくなったのも、このような組織だった動きがあったからだと言えます。 ■ほぼすべての被害者が借金をして時計を購入していた この事件は中国に流通ルートがあるという話はまったくのデタラメで、実際には国内の時計店などに転売していたため、被害者の購入したロレックスのシリアルナンバーを全部調べて照会をかけて……という手順で証拠を成立させることができました。 詐欺の背景に円安などの経済状況が絡んでいるのかについては、確定的なことはわかりません。ただ、投資に踏み切る被害者の心理として、「海外の市場」という言葉が魅力的に映った部分はあるのかもしれません。 加害者が被害者を誘うときの文句としては、常套句と言っていいもので、「俺を信頼しろ。そうすれば月利◯%で増やしてやる。もちろん、元本保証だから安心しろ」という趣旨のものです。 ほぼすべての被害者がやはりローンを組んでロレックスを購入しており、そのなかには自己破産を検討している人もいました。