日産自動車が90%超の大幅減益 大規模リストラと三菱自動車株の売却で今後はどうなる?
安いから売れるわけではない
まずはグローバルで見た場合の稼ぎ頭である、アメリカにおける日産のブランド力と商品力について考えてみよう。といっても筆者は在日日本人であるため、アメリカに住まう方々が何を「いい!」と感じるものなのか、正味のところはわからない。だがアメリカ市場における自動車ディーラーへのインセンティブ(販売奨励金)の額を見れば、アメリカの人々が日産ブランドとその車両を内心でどう見ているかは、おおよそ見当がつく。 調査会社によれば、2024年6月の日産の一台あたりインセンティブ額は約4000ドル(約60万円)で、これはトヨタの2.5倍、ホンダの1.6倍であったという。つまり今、アメリカにおける日産車とは「安いから(値引きがデカいとか、ローン金利0%のキャンペーンをやってるから)選ぶブランド」になっているのだ。あるいは、北米における主力車種である「ローグ」(日本名「エクストレイル」)の苦戦から考えると、「安くても積極的には選ばないブランド」になってしまっている可能性すらあるだろう。 そうなったとき、販売台数を回復させるためにさらなるインセンティブをじゃんじゃん追加していくと(つまりエンドユーザーがさらに安く購入できるように仕向けていくと)、ブランドというものは簡単に死ぬ。筆者は消費財メーカーに勤務していた時代、そういった“死亡例”を嫌というほど見てきた。 モノは、安いから売れるわけではない。いや値引きをすれば一時的には売れるのだが、すぐにまた売れなくなる。それゆえ、多額のインセンティブを用意することではなく「エンドユーザーが本当に欲しいと思えるモノ」をつくるのが、業種を問わず、メーカーのやるべき仕事なのだ。 だが状況を見る限り日産は、稼ぎ頭である北米市場において“それ”ができていないのだろう。したがって「……ちょっと難しいのではないか?」と思うのである。
「技術の日産」アピールには意味がない?
そして日本市場においても、日産のラインナップには「これでなきゃダメなんだ!」とエンドユーザーに思わせるモデルがなかなか見当たらない。 もちろん「GT-R」や「フェアレディZ」は、人にそう思わせる一台ではあるのだが、あまりにもニッチである。イメージリーダーとしては機能しても、企業の経営を支える“数字”にはなり得ない。数字が稼げるカテゴリーにおける「これでなきゃダメなんだ!」と思える日本仕様の日産車は、筆者が見る限りでは「ノート」および「ノート オーラ」だけだ。この2車種は、「他のブランドにはこういった“小さなハイセンスモデル”がない」という意味で代替がきかない。それ以外の車種は──もちろんいずれも悪いモデルではないのだが、残念ながら「他車での代替もおおむね可能である」と言えてしまう。 ならば日産という会社は今後どうすればいいのか──という問題の詳細については、筆者は語るべき言葉を持たない。巨大グローバル企業のかじ取りをどうすべきかなど、筆者にわかるはずもないからだ。 ただしひとつだけ言えるというか思うのは、「技術の日産」的なプレゼンスおよび方向性は、さすがにもうやめたほうがいいのではないか? ということだ。 日産は昔から、自社の技術に相当な自信を持っているのかもしれない。だが、ごく一部のマニアを除いたほとんどのエンドユーザーがクルマに求めているのは「技術そのもの」ではない。いやもちろん技術は大切なのだが、人は「その技術が自分の生活にもたらすもの」に興味を持つのだ。 それゆえ「技術の日産」アピールには意味がないばかりか、もしも日産の社内が「人々が抱えているjob(片づけるべき仕事)を解決する」というマーケティングの超基本ではなく、「とにかく技術でぶっちぎればいい」という思想に凝り固まっているとしたら(……そんなことはないと信じたいが)、今後も日産の再浮上はないだろう。 ただ、繰り返しになるが「そんなことはない」と信じたい。いちカーマニアとしてjob解決型ニューモデルの登場と、日産の復活を期待している。 (文=玉川ニコ/写真=日産自動車/編集=櫻井健一)
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