スポーツビジネスを変える「チリーズ」、日本上陸へ──SBIと合弁設立で最終交渉【インタビュー】
巨大化する欧州サッカーのファンコミュニティ
──例えば、米メジャーリーグ(MLB)の観戦チケットの総売り上げは、日本のプロ野球の規模をはるかに超える。日本のプロスポーツの市場規模や時価総額を拡大するには、アジア展開、世界展開を本格化させるべきとの声が頻繁に聞かれる。 マックス:日本でライブ体験したスポーツはプロ野球だ。熱狂的な応援をする多くのファンが、スタジアムで貴重な時間を過ごしている様子を目にした。 同時に、欧州や米国の野球ファンが日本のプロ野球を楽しむ機会が少ないということを、改めて実感した。欧米に住む日本のプロ野球ファンや、これからファンになり得る人たちと、日本のプロ野球を繫ぐチャネルがない。 どんなに小さな方法でも、世界のファンと日本のプロスポーツを繫ぐことを進めていけば、未来の成長につながるはずだ。 日本市場における事業において、まず着目すべきと考えているのは、もちろん欧州のサッカーだ。欧州サッカーのファンコミュニティは巨大でグローバルだ。南米、アジア、アフリカとボーダーレスに存在する。 我々はサッカー以外のスポーツでもサービス提供をしてきたが、最も成功を収めたケースは欧州のサッカーであることは間違いない。 時にネガティブな意味合いで、日米のスポーツ市場規模比較や日欧比較をされるのかもしれないが、日本のプロスポーツはそれだけ未来の成長ポテンシャルがあるということだろう。
野球、サッカー…チリーズで発行される日本初のファントークンは?
──SBIグループはチリーズとのJVをどう進めるべきと考えるか? フェルナンド:SBIは5000万件を超えるリテールの顧客基盤を持っている。加えて、傘下に置く暗号資産取引所を含むデジタル資産事業を通じて培ってきた知識と経験は、チリーズと我々とのJVを前進させる一つの大きなカギとなる。 まずは、Socios.comで既に流通しているファントークンを、日本で上場できるようにすることがフェーズ1だ。次に、日本版Socios.comというアプリケーションを運営する準備を進めることがフェーズ2になるだろう。 ファントークンは、「ファンジブルトークン(FT=代替性トークン)」で、日本ではその多くが暗号資産として規制されることになる。 マックス:長いプロセスになるかもしれない。しかし、法規制に則った体制を整えることを、可能な限り速く、可能な限り注意深く進めていきたい。また、日本ではSocios.comという名前を使わずに、日本に相応しいブランド名を考える必要があるかもしれない。 ──ファントークンの発行は、プロスポーツチームにとっては資金調達の一選択肢になるということか? マックス:ファントークンが販売されれば、確かにチームの売り上げの一部として計上されるものの、ファントークンをスポーツチームが資金を調達するためだけのメカニズムとして捉えるのは間違いだ。 伝統的なスポーツチームの事業モデルは、チケット販売や放映権、スポンサー契約、ファングッズの販売などがある。一方で、チームはイノベーティブな方法を通じて、ファンに対する新たな価値を与えようと努力している。 日本のプロスポーツチームの課題が、我々が見てきた欧州のサッカーチームのニーズに類似するものであれば、一つの解決策はファントークンを通じて導かれるだろうと思う。 現段階で、日本のどのスポーツの、どのチームにファントークンの提案を行うかは決めていないし、それを議論するのは時期尚早だ。 フェルナンド:希望的には(プロ野球とサッカー)の両方だ。二者択一というわけでもないだろう。 マックス:(ファントークンの)ニーズは日本に根強く存在していることは確かだ。日本のプロ野球とJリーグの関係者と以前、議論をしたことがあったが、その時は日本事業の検討を中断した。法規制を含む市場環境が不透明ななか、事業計画を進めるわけにはいかなかった。 ──日本のプロスポーツチームが世界中のファンを魅了することは可能だろうか? マックス:不可能ということはないと思う。ただ時間を要するのは確かだ。スポーツビジネスは長期事業であり、保守的でもある。 世界中の全てのサッカーチームは世界No.1のチームを目指しているが、それをたったの5年で達成することは難しい。歴史を見れば、名だたるチームは25年、50年、75年の時間を経て、世界No.1の地位を確立してきた。 そのチームを応援するファンは、一つの世代から次の世代へと受け継がれ、そのコミュニティは変化・成長してきた。ファンとの繋がりはとても重要で、ファンコミュニティとのエンゲージメントをいかに高められるかを考えるのもチームマネジメントの一つだろう。 加えて、全てのスポーツチームが同じマネジメント方針の下で運営しているわけではない。それぞれが異なり、ファンエンゲージメントに対する考え方も異なる。多種多様なチームのファントークンを扱うことで、我々も多くを学んだ。 日本には、スポーツを応援する成熟した大きなファンコミュニティが存在する。まずは、ファントークンという体験を日本のファンに楽しんでもらいたい。 |インタビュー・文:佐藤茂|トップ写真:左・チリーズ最高戦略責任者のマックス・ラビノヴィッチ氏、右・SBI DAH最高経営責任者のフェルナンド・ルイス・バスケス・カオ氏(撮影:多田圭佑)
CoinDesk Japan 編集部