なだぎ武さん、部屋に引きこもっていた僕を変えた10代の尾道ひとり旅
寅さんに憧れて西へ向かう電車に乗った
「10代の時の旅が大きな転機だった」と語るお笑いタレントの、なだぎ武さん。初めてのひとり旅には、勇気と弱気、歓喜と悲哀、想定外のアクシデントと出会い……若者らしい旅の素晴らしさ、冒険心や感受性の強さが凝縮されていて感動的です。東京・渋谷のヨシモト∞ホールの楽屋で話を聞きました。 映画「転校生」で主人公2人が転げ落ちるシーンが撮影された神社の石段 中学時代にいじめを受けて人間不信になりました。高校に行かずに就職したものの長続きせず、実家の部屋に3年ほど引きこもりました。疑心暗鬼になり、人に見られるとギュッと胸が苦しくなる感じで、なるべく外に出ませんでした。子どもの頃から、自分の部屋のテレビで映画やドラマばかり見ているテレビっ子。好きなエンタメの世界に一人没頭して、コミュニケーション能力が衰えていったのかもしれません。 ガリガリに痩せていく生活を送りながら、「このままでいいんかな」という疑問が芽生えました。親に申し訳ない気持ちはあっても、どうしていいのかわかりません。そんな時、テレビで見た人物に衝撃を受けました。映画「男はつらいよ」の車寅次郎です。「フラフラしてるだけやのに、なんでこの男の周りには人が集まるんやろ」と。旅先で珍事件を起こして、すぐ友達をつくって、マドンナに恋して。そんな寅さんは、自分にないものをすべて持っていました。「この人に近づきたい」「何も持っていない自分も、寅さんみたいに、ひとり旅ならできるかもしれない」と思ったのがきっかけです。 行き先は尾道。映画「尾道三部作」の「転校生」を見た時に、「いつか主人公が転げ落ちる神社の階段に行ってみたい」と思ったのを覚えていたのです。大阪から在来線を乗り継ぎ尾道に着きました。階段を目的に来たものの、場所は知らないので人に聞くしかありません。池から大海に出た気分です。人に声をかけようとしても勇気が出ません。何人か見過ごした後、ようやく声をかけると、目印になる所への行き方を教えてくれました。それを繰り返して階段までたどり着いた時、感じたのは達成感でした。やればできるんや!と。ここがゴールでした。 緊張が解けるのと同時に、お腹が空きました。目的を達成して気持ちが大きくなっていたんでしょう。途中の食堂に入って生ガキを食べ、食あたりになってしまったのでした。