「また実写化か」「心配な予感が」との声もあったが…。実写化に物議【推しの子】ドラマが“意外と好評”なワケ
この流れを見てふと【推しの子】の「展開を変えるのはいいんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか?」(5巻45話より)という台詞を思い出した。詳細は省くが、メディアミックスの脚本家に対して、原作者が怒りをあらわにするシーンである(ちなみにこの台詞は、議論の結論ではなくあくまで過程で用いられる)。 ドラマ『着せ恋』は、この台詞が言うように「元あったキャラクターの魅力が損なわれる改変」をしてしまったのである。さらには、ヒロインが体現している “人の好きなものをリスペクトし、肯定する”という「作品全体に通底するメッセージ」を取りこぼす表現をしてしまったがゆえに、批判を招いてしまったと言えるのではないだろうか。
■“深読み”させるキャスティングの妙 それではドラマ【推しの子】は、上述したような実写化の課題をどのように乗り越えたのか。先ほど引用した台詞に応えるかのように、「構成は原作から変えても、キャラクター像は死守した」ことで実写化へのポジティブな評価につなげていた。 まずキャラクター像に関しては、脚本の力が物を言うのはもちろんだが、特に実写ならではのユニークな手法だと感じたのが「キャラクターと共通点のある俳優を起用したキャスティング」である。
たとえば、作品を象徴するカリスマアイドル・アイ役には、乃木坂46で中核を担っていた齋藤飛鳥を抜擢。さらに、抜群の演技力を誇る子役出身の有馬かな役には元子役の原菜乃華を、アイドルとして天性の素質を持つルビー役には齊藤なぎさを、バズるセンスが一流のインフルエンサー・MEMちょ役にはあのを起用しているが、いずれもキャラ名とキャスト名を入れ替えてもほぼ遜色ないほど、当人たちのキャリアと重なる部分がある。
何かと“深読み”しがいのあるメタなキャスティングなのだ。 若手のキャストが多く、俳優として経験豊富な顔ぶればかりではないが、それもまた芸能界でスターダムを駆け上がっていく登場人物たちの空気とどこかリンクする。 このようにドラマ【推しの子】は、実写化でまず言われがちな“キャラ解釈”への不信感を、キャラクターの個性を尊重したキャスティングによって解消している。 もちろん、これがすべての実写化における最適解ではないだろう。しかし少なくとも、現代の芸能界を舞台にした本作においては、原作のコンセプトを汲んだ表現として効果を発揮しているように見える。