都心部の億ションはまだ「バブル」とは言えない…!一極集中で高騰する今のマンションと「バブル期」との決定的な違い
不穏な兆候、価格指数「実績値>推計値」の乖離
つぎに東京の既存マンション価格指数である「不動研住宅価格指数(東京)」の前年同月比の変化を対象に回帰分析してみよう。ちなみに不動産系の情報会社などが公表している新築マンションなどの平均価格が前年同月比で大幅に跳ね上がったニュースなどをしばしば目にする。 販売された物件の単純な平均価格は、高額物件の数が増えるとそれだけで跳ね上がってしまう。しかし本当に知りたいのは、同一・同種物件の価格の変動だ。その点、この価格指数はそうした統計的な配慮に基づいて作成されている。 この回帰分析は前掲24年1月の論考でも行ったものであり、今年のデータで更新した結果と比べてみたい。既存マンション価格指数の変動要因としては前回同様であり、有意で強い関係性を有する要因(変数)は次の3つである。1)在庫率(月数=売出中物件の件数/月間成約件数)(データ:東日本不動産流通機構)、2)失業率(厚生労働省)、3)日経平均株価指数(前年同月比)。 結果は図表4の通りであり、説明度を示す決定係数は0.775と高い。これは上記の3変数で既存マンション価格指数の前年同月比の変化を77.5%説明できることを意味する。ただし前回(2023年8月時点)と異なり、今年の夏から「実績値>推計値」という乖離が大きくなっている点に注意しよう(グラフ上の赤色縦棒)。全般的な価格の過大評価(あるいは過少評価)局面は、価格とその諸要因とのそれまでの関係性が崩れることが経験上多いからだ。 ■図表4 中古マンション価格指数(東京)実績値と推計値 (前年同月比%、2024年9月現在) 今年7月の実績値(マンション価格指数の前年同月比)は+10.8%であるが、推計値は+5.5%にとどまる。2006年以降では「実績値>推計値」の乖離が4%を超えることが、今回除いて3回あった。第1回目は2007年の東京の不動産ミニバブル局面、2回目はリーマンショック後の回復局面2010年、第3回目は新型コロナショックの2020年だ。 第3回目の局面は短期的に売り圧力が加わった局面だ。在庫率が上がり、株価が下がったため推計値は前年同月比ゼロ%近辺まで低下した。ところが、マンション価格はそれほど下がらず、結局、在庫率も株価もその後急速に回復したため乖離は消滅した。 一方、1回目と2回目はマンション価格の高騰・反騰局面で起こった乖離であり、その後、実績値が急速に下がり、前値同期比マイナスになる形で乖離が収束している。もっとも過去18年で4回しか生じていないケースなので、現在のマンション市況が全般的な過大評価であり、この先に目立った反落が待っていると断定できるほどではない。 しかしながら、このままのペースでの価格の上昇がさらに数年も継続するのは無理そうだとは言えそうだ。逆に仮にそんなことになれば、いよいよ市況はフロスからバブルへシフトすることになるだろう。 以上総括すると、今後3~4年を展望して景気の後退(失業率の上昇)、株価の大きな下落、在庫率の上昇が起こった場合には、マンション価格の景気循環的な軟化局面が到来する可能性が高そうだ。この点は注意しておいた方が良いだろう。
竹中 正治(龍谷大学経済学部教授)