「犯人は10人未満のうちの誰かだ」重度障害の娘への性加害…でも警察は被害届を一時受理せず 両親は独力で闘い始めた
ただ障害者が被害者となる事件を多く担当してきた杉浦ひとみ弁護士は、こう指摘する。 「一昔前は障害者の事件を軽視する傾向はあったが、最近は被害届を提出できないとは聞いたことがない。検察が、言葉を話せないことで『公判を維持できない』と判断するケースはあるが、警察の段階で被害届を受理しないのは、経験した人は少ないのではないか」 捜査関係者も、障害の有無にかかわらず子どもが性被害に遭った際、ショックで話ができないために保護者が被害を代筆したり、日時や場所を空欄にしたりして提出されるケースはあると話している。 地元署は取材に「性犯罪被害については事件があったかなかったかも含め捜査状況についてお伝えできない」と回答した。 両親は7月下旬、署から「新たな証拠が出ないと難しい」と伝えられた。 ▽「捜査」を始めた夫妻 夫妻は自分たちで「捜査」を始めた。まずは学校からデイサービスまでに乗った車のドライブレコーダーの回収。しかし、数カ月前のデータは既に消去されていた。「もっと早く動いていれば…」。悔やんでも仕方がないが、そう考えてしまうという。
その後、沙織さんが地元の議員に以前から事件のことを相談していたこともあり、署は被害届を提出するよう促した。事件から4カ月たって、被害届と供述調書を提出することができた。 ▽娘を守りたい 沙織さんによると、長女が被害を受ける以前から、知人の子どもが虐待や性被害を受けた経験を多く耳にしていた。それでも「まさか自分の娘の身に起きるとは思っていなかったんです」。障害者の施設で働く従業員の中には、虐待で退職させられた後も、施設を転々としながら同じ職を続けている人もいると聞いた。 重度障害の子どもを預かってくれるデイサービスも、地域に潤沢にあるわけではない。被害に遭った可能性のある場所に、しばらくの間は娘を預けなければならないジレンマがあった。 「どうやったら娘を守ってあげられるのだろう」 自分にできることを考え始めた。 そんな時、ニュースで見かけたのが「日本版DBS」だった。子どもと関わる仕事に就く人に、性犯罪歴がないことを確認する制度だ。学校や保育所に性犯罪歴の確認が義務付けられるが、一方で、学習塾や放課後児童クラブなど「公的な監督の仕組みが整っていない施設」は、義務ではなく任意になる見通しだ。
「任意であってもいい。これを障害児や障害者が通う福祉施設や介護施設にも広げてほしい」。日本版DBSの対象に含めるよう求める署名活動を、インターネット上で始めた。 長女は未成年だが、特別支援学校を卒業した後は、生活介護事業所に通う。「娘は逃げることも叫ぶことも周囲に伝えることもできない。娘が守られる制度を整えてほしい」と訴え、集まった署名は8千筆を超えた。 これからも自分たちにできることを、地道に探していく。「娘が安心して暮らせる街にしたい。そんな簡単なことが危ぶまれている現状がある。少しでもよりよい日常を目指して」 夫妻の闘いは続く。