株価の低迷と人的資本情報開示の関係性 双日に学ぶ人材データの可視化と発信
人はKPIだけでは語れない。人事が開示すべき人的資本の定性情報
――貴社は統合報告書の充実度に定評があります。その作成の際、人事はどのような役割を担っているのでしょうか。 善家:統合報告書は、IR室を中心に、多くの部署が連携して作成しています。人事部が関わるのは主に「人材戦略パート」です。加えて、当社が「人」を起点にしていることがステークホルダーに伝わるよう、人事部が情報開示の旗振り役を担っています。2030年の目指す姿を実現するために、財務的な観点だけでなく、事業を創るヒトの魅力(ちから)を示すことで、双日らしい成長ストーリーの実現に向けた期待感を醸成できればと考えています。 ――統合報告書の一部として、物語風にまとめた「価値創造ストーリー」も公表されています。このような形式で人的資本情報を開示している経緯をお聞かせください。 善家:人事施策の理解・浸透度を定量的に効果測定するため、人材KPIを21年から開示しています。しかし、人材はKPIだけでは語れません。鉱山でヘルメットをかぶって働く社員がいたり、言語や文化の壁がある地域で必死に交渉する社員がいたりと、社員一人ひとりにストーリーが宿っているのです。だからこそ「価値創造ストーリー」のようなドキュメンタリー調のページを設け、定性的な「生の情報」を届けられるような構成になっています。 合田:当社では各部門で外部ステークホルダーと接点があり、どうすれば共通のメッセージを発信できるか頭を悩ませていました。そこで、IRの執行役員が委員長を務め、非財務に携わる職能部門のトップが参加する「開示検討部会」を隔月で開催しています。情報交換や議論を交わすことで、非財務情報を含めた当社の取り組みをうまく開示して情報の非対称性を解消し、ひいてはPBRの最大化を目指すものです。 統合報告書を含む開示物においてどのようなメッセージを打ち出したいかも議論しています。例えば、2023年の統合報告書は、双日グループのスローガンである“New way, New value”をコンセプトとしていますが、“New way”がどのような“New value”を創出しているのかを示したいと考えた結果、当社の強みであるベトナムにたどり着きました。IR室のメンバーが現地取材を行い、New way, New valueの実践を通じた価値創造ストーリーを創り上げることができました。 ――このような定量データに表れない人材の強みを、人事部はどのように得ているのでしょうか。 善家:現場との対話の機会に尽きると思います。河西が社長と週2回対話しているように、人事は経営との距離が近いのですが、会社全体では横のつながりも強化してきました。例えば、課長研修が果たしている役割は大きいと思っています。課長研修では、中期経営計画への意識を高めたり、それぞれの部署の現状を共有したりしているのですが、人事部からサーベイやデータ分析から得られた気づきを各部署の課長にフィードバックすることで、ピープルマネジメントに役立ててもらっています。人事から積極的に情報を提供することで、若手社員のキャリア形成・人材の抜てきや登用に関わるような相談ごとが増えてきています。 人事部はデータと現実世界をブリッジする存在です。人の感情やモチベーションなど、リアルな部分に作用させるためのデータ活用が何より大切だと思います。