FC町田ゼルビア、異質に映る2つの「行為」を巡るジャッジの是非。水かけ、ロングスロー問題に求められる着地点
J1の首位戦線を走ってきたFC町田ゼルビアの試合中の行為を巡って、クラブ、ファン、サポーター、審判委員会が議論を繰り広げている。問題となったのは、FW藤尾翔太がPK獲得時にルーティンとしているボールへの「水かけ」と、ロングスロー時に「タオルでボールを拭く」行為だ。競技規則に記述のないそれらの行為の是非とは? 審判委員会と町田・黒田剛監督の見解を通じて、一連の論争の問題点を掘り下げる。 (文=藤江直人、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
競技規則にない“水かけ”の是非。高崎主審の判断は正しかったのか?
全部でわずか17条しかないサッカーの競技規則のなかに、SNS上で是非が問われた行為に対する記述はいっさい見当たらない。日本サッカー協会(JFA)審判委員会のマネジャーで、Jリーグ担当統括を務める佐藤隆治氏も、審判員としての長いキャリアを振り返りながらこう語る。 「海外を含めて、こういったケースを見た覚えはありません。もし僕が指導者だったら、子どもたちにはやらせません。もちろん、やらせる指導者がいても、それを否定するものでもありません」 何に対して言及しているのか。パリ五輪代表に名を連ねたFC町田ゼルビアのFW藤尾翔太が、試合中にPKを獲得したときのルーティンを問われたときのコメントだ。藤尾はそれまで口にしていたペットボトル内の水を、ボールの表面にたっぷりとかけてからPKを蹴ってきた。 クラブ史上で初めてJ1の舞台で戦う今シーズン。藤尾が初めてPKキッカーを託された3月30日のサガン鳥栖戦の87分に、藤尾は普通にボールをセットした末にゴール左に外している。 次にキッカーを任された5月15日の東京ヴェルディ戦の60分に、藤尾は初めてボールの表面に水をかけるルーティンをはじめた。これをゴール右下へ正確に決めると、6月30日のガンバ大阪戦の61分にも、同じルーティンをしかけた後に、今度はゴール左へ勝ち越し弾を叩き込んでいる。 もっとも、このときはPKを蹴る前にひと悶着があった。ピッチ外に置いてあったペットボトルを取りにいこうとした藤尾を、複数のガンバの選手が取り囲む形でこれを阻止。敵地・パナソニックスタジアム吹田で大音量のブーイングを浴びながら、藤尾はしっかりと仕事を遂行した。 ヴェルディ戦で水をかけた情報があったからか。藤尾は試合後にこんな言葉を残している。 「普通に水を飲みたかっただけで、(ボールに)水をかけようとは思っていなかった」 そして、8月17日のジュビロ磐田戦の58分を迎えた。これまでと同じくボールへたっぷりと水をかけた藤尾のもとへ、高崎航地主審がゆっくりと歩み寄ってくる。促されたのはボールの交換。藤尾は両手を広げて抗議の意を示したが、ボールは新たなものに替えられた。 高崎主審に対して町田の選手たちが抗議するだけでなく、ピッチの外では第4の審判団を務めていた塚田健太審判員に対して、黒田剛監督も状況説明を求めている。チームの4点目を決めた藤尾は、試合後に「ルール的には問題ない、と言われたけど、何で、とは思いました」と語っている。 競技規則のなかには、17条のどこにも「ボールに水をかけてはいけない」とは明記されていない。一方で「水をかけてもいい」とも記載されてもいない。こうした状況でボールの交換に至った、ある意味で異例かつインパクトの強い高崎主審の判断を、佐藤氏はこんな言葉を介して支持した。 「間違っていなかったと思っているし、十分に理解できるものだった」