山梨県知事に聞いてきた、富士山を「世界レベルの観光エリア」へ、登山規制など課題解決から未来ビジョンまで
観光産業の高付加価値化を支援、人材流出を阻止へ
長崎知事が、県内の観光産業の課題のひとつとして位置付けているのがサービス業としての高度化だ。「薄利多売のメンタリティで、安い給料のうえに重労働であれば、働き手は誰も来なくなる。人材が県外に流出してしまう」と危機感を示す。 「宿泊施設をはじめとした観光産業のステータスを上げていき、特に若い人や女性にとって憧れの職場にしていきたい」。 それを実現していくために、県として観光産業の高付加価値化を目指している。長崎知事は「それが山梨県の観光政策の基本的な哲学」だと力を込める。 今後、人口減少で担い手はどんどん減っていくなかで、「人材を集めるためには給料を上げることが必要」と明快だ。そのうえで「高い満足度を提供できれば、来訪者は増えて、収益も上がる。そういう道を目指していく。そのためなら、県はいくらでも支援する」と続けた。 長崎知事によると、少しずつ県内投資も始まっているという。企業誘致を支援する県の「産業集積促進助成金」の対象に、製造業のほかに、数年前から観光関連も加えた。 長崎知事は、「たとえば、500室の宿泊施設を誘致して、稼働率が90%になったら、年間を通して400人強の村ができることと同じ」と例える。そこに雇用が生まれて、さまざまな関連産業も参入してくる。「製造業の工場と同じ意味で、山梨県にとって重要なこと」との認識だ。 また、高付加価値化に向けては、既存の資源を活用した新たな仕掛けも模索している。たとえば、石和温泉。周辺にリハビリテーション系の病院が集積することを活かす。旅行に行きたくても健康上の理由から躊躇している高齢者や療養中の人を中心に、病院の理学療法士らと連携して「安心して、温泉旅行が楽しめる温泉地にしていきたい」という。いわゆるユニバーサルツーリズムだ。 長崎知事は、「高級旅館でなくても、ニーズを満たすことで、しっかりとした収益モデルを作ることができるはず」と話す。 さらに、山梨県の食と観光のコラボにも意欲を示す。フルーツやワインをはじめ、高値で取引される北杜市の「武川米」、キングサーモンとニジマスを交配した山梨県のブランド魚「富士の介」などを観光促進に利用していきたい考えだ。 加えて、生産者と料理人のマッチングを通して、「美食王国」を作っていく取り組みも始めているという。長崎知事は、「たとえば、丸の内の30代、40代の女性の間で、山梨県のレストランが話題にのぼるようになれば」と期待を込める。