幼児誘拐・売買事件…映し出される中国社会の一断面をウォッチャーが解説
カネを払う、買ってでも子供がほしい者がいるからだ。この事件でも、子供は農村に売られていた。働き手、後継ぎ…。しかし、戸籍がないまま、引き渡される子供の将来がどうなるか、明らかなはずだが。 映画『Lost and Love』の1シーンで、犯人が誘拐した女の赤ちゃんを、引き渡す場面がある。いわゆる“買い手”は犯人にこう言い放つ。「ほしいのは、男の子と言っていたじゃないか!」。現実でも誘拐され、売られるのは、多くのケースが、物心がつく前の赤ん坊(=乳児)、そして男の子だ。中国社会の闇の一つだ。 我が子の将来のために、と両親が子供を農村に残し、都会で出稼ぎしているうちに、子供が誘拐されるケース。また、出稼ぎの父親、母親と一緒に都会に来たものの、両親が働いている間、一人、家に残されるのを狙ってさらわれるケースもある。 ■党指導部の意向で2審も厳しい判決か 裁判に戻ろう。1審は誘拐犯の男に「執行猶予2年付きの死刑」。また、共犯の女に対しては、「無期懲役」を言い渡した。2人は内縁関係にあった。男はこの裁判の事案を含め、5人の子供を誘拐し、売っていた。女は全部で4人の子供をさらって、売ることに加担していた。 中国の裁判は、共産党指導部の意向を反映するケースが少なくない。中国社会にはびこる問題。映画にもなって注目を集めた事件…。そして社会に警鐘を鳴らすためにも、控訴審裁判でも、厳しい判決が出るだろう。 それにしても、我が子を探し続け、その思いが実ったとはいえ、24年間の空白はあまりに長すぎる。子供の環境も大きく変わる。親子の間、そして、それぞれの人生において「空白の24年間」は戻らない。父親は、メディアに犯人についてこう語っている。 「やつらは人間の顔をした悪魔だ」。 きょうは、中国で今も起きている乳児や幼児の誘拐、そして、さらった子供を売却するという事件から、中国社会の一断面を観察した。 ■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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