幼児誘拐・売買事件…映し出される中国社会の一断面をウォッチャーが解説
男の子を買う約束をした農民は、1万5000人民元のうち、2000元しか、誘拐犯の男女2人に支払えなかった。このため、2人はこの子を買い戻し、男の子を別の農民に売った。今度は6000元。当時のレートで9万円から10万円だろう。誘拐から1年あまり後のことだ。 ■映画化そして親子の再会 我が子が突然、いなくなった両親は、さぞ悲しみに暮れただろう。この事件が大きくクローズアップされたのは、実は、子供を奪われた父親のその後の行動が、悲しみと怒りで社会に反響を呼んだからだ。 父親は自ら行動を起こした。オートバイに独り乗って中国全土を回り、我が子を探し求めた。誘拐された当時(=2歳半)の我が子の写真をプリントした大きな旗をつくり、バイクの荷台に立てた。「この子を知りませんか。誘拐されたのです」と書いたビラを配って回った。距離にして50万キロを超える。地球を10周以上する距離だ。バイクを10台、乗り潰したという。 その息子は誘拐から24年後の2021年6月に見つかった。2歳半だった我が子は27歳になっていた。DNA鑑定を経て、親子であることが証明され、両親の元に帰れたわけだ。誘拐犯の男女2人は、翌月、逮捕された。 24年ぶりの親子の再会。ただ、父親の執念に加え、この実話を素材に映画がつくられたことが大きい。タイトルは英語で『Lost and Love』(中国名「失孤」)。主役の父親役を演じたのは、香港の大スター、アンディ・ラウ(中国名・劉徳華)。あのアンディ・ラウがわずかな期待と大きな失望を繰り返し、疲れ果てる中年の農民を熱演した。 映画が公開されたのは2015年。映画によって、この事件が社会で大きな関心を集めたことも、公開から6年後の2021年、我が子との再会にも大きく貢献したようだ。 ■いまも年間2,500人が売買目的で誘拐 21世紀になっても、子供を売ることを目的にした誘拐が起きている。中国の公安省(=日本の警察庁)が今年9月、記者会見で明らかにした。この夏に実施した犯罪集中取り締まりの成果を発表した。長年、誘拐された女性や子供2,505人が救出されたという。