生活に寄り添うつげ櫛を作り続けて 江戸職人の考えるつげ櫛の魅力
約60の工程を経て出来上がるつげ櫛
ー創業時からずっと手作業なのですね。 はい、うちは創業時から手作業で作ってきました。以前、文化庁の取り組みで製造工程を記録してもらったところ、約60の工程があるとわかりました。 この約60の工程は、すべてつげ櫛のポテンシャルを引き出すためにあります。 そうして作られるつげ櫛は使っていただくと良さがわかると思います。触り心地、地肌への当たった感触、髪の通り具合、感じ方は人それぞれでしょうが、確かに違いがあるのです。 この違いを感じていただくために、当店では店頭にお試し用のサンプルを置いています。サンプルは傷がついてしまったもので商品価値はないのですが、実用には問題ないものです。そのため実際に使って試して、違いを実感していただくことが可能となっています。 当店の櫛は決して安いものではありません。お店にたどり着くのだって、きっと何かで調べてくださっているのでしょう。 そうやって来てくださったのに「使い心地がわからない」という不安で、買うかどうかを決められなかったというのは申し訳ないことだと考えています。 お客様にはできるだけ満足していただきたいのです。 またそうやって試していただいた後には、商品にある程度の調整も可能です。地肌の当たり具合をお好みに合わせ変えることができます。 加えて「時が経って趣向が変わった」、「子どもに使わせてあげたいから当たり心地を柔らかくしたい」などのご要望が生まれた際はその対応も行っています。 この削り具合は経験がものをいうポイントですね。 昔、つげ櫛は一生物といわれており、母から子へと受け継ぐ道具でした。 その方の、そしてその家族の生活に寄り添っていく。昔はそれが道具の本分だったのだと思います。 そして生活に合わせて道具を調整することこそ、当店のような専門店の役割なのだと、私は考えているのです。 お客様には「何かあったらまた来てください。できる限り対応いたします」と必ず伝えています。