生活に寄り添うつげ櫛を作り続けて 江戸職人の考えるつげ櫛の魅力
江戸時代に創業。関東大震災を乗り越え、今日に至る
ー十三や櫛店にはどういった歴史があるのでしょう? 私は初代から数え15代目になりますが、実は詳細な歴史というのはわからないのです。 関東大震災で歴史に関する資料はほとんどが燃えてしまい……。過去帳と店の奥にある看板だけが残っています。あの看板は江戸時代のものなのです。 聞いて伝わっている内容を伝える形になりますが、創業は元文元年(1736年)。初代の名は金子清八といい、もともとは仙台藩にいた下級武士でした。 清八が脱藩した後開業した年は元文元年。このころは元禄という華やかな時代が終わり、食糧に困る期間が長く続いていた時期でした。そのため清八は仕事の他に内職をしており、それが櫛作りだったのです。 元文元年になって創業の決意を固めますが、ここである問題に見舞われます。 お店の名前に使えるものがなかったのです。通常、出身地や師匠、修行した店名に関する名前を入れるのですが、脱藩していたためそれらは使えませんでした。 そこで考えついたのは櫛の「く」を「九」、「し」を「四」として足し合わせ「十三」として表記するということ。これならば櫛屋だということをお客さんに伝えやすく、また他とかぶる心配もありません。 そうして店の名前は十三や櫛店となったのです。
関東大震災の際は店が焼け、残ったのはいくつかのものだけになりました。 しかしお店は残り、区画整理でもともとあった場所から蔵1個分ほど移動した今の場所で営業を再開。第2次世界大戦でも焼けることなく、今に至っています。 十三や櫛店には「仕事ができないと後継になれない」という決まりがあります。櫛作りができる者が代々店主となっており、長男で店主となっているのは私がはじめてです。 この決まりや新たな事業にチャレンジし失敗したことなどから、過去には店主がおらず商人だけがいた時代もありました。そんなことがあったため、店主の苗字はその度に変わっています。今の竹内姓が店主を務めるようになったのは父の代からです。 十三や櫛店のつげ櫛は質の高さからとても人気で、御用達制度があった時代には皇室に櫛をお納めしておりました。今もご依頼をいただくことがありますね。