生活に寄り添うつげ櫛を作り続けて 江戸職人の考えるつげ櫛の魅力
やりがいのきっかけは、お客様の声
ー竹内さんは子どもの頃から家業を継ごうと考えていたのですか? いえ、正直に言うと子どもの頃はなんとも思っていませんでした。ただ「特殊なんだろうな」とは子ども心に思っていました。友達からは「良い匂いがする!」と言われていたので……。 つげ櫛を作る際、つげのアクを抜くために燻す工程があります。その匂いが焚き火の匂いというか、お風呂屋さんの匂いというのに似ていたのでしょうね。 中学生になると「継いだほうがいいのかな?」とも考えるようになりましたが、高校生の頃には別の仕事に興味を持つようになりました。その一方で親戚一同は店が無くなったら大変だと考え「給料がいいよ」や「好きに休めるよ」と、十三や櫛店の仕事の良い点を伝えてくるようになりました。今思うと大嘘でしたが……。 父は仕事については何も言ってきませんでした。今だからこそわかりますが、この仕事は苦労の多い仕事です。「やれ」と言われて続くものではありません。 だからこそ息子である私の意見を尊重してくれようとしていたのだと思います。 最終的には話し合いをし、高校を卒業した後に家に入ることとしました。そして卒業した次の日、つまり4月1日から家の仕事を始めたのです。 もともと中学生の頃から磨きの工程の手伝いをしていたこともあって、仕事にはスムーズになれていったと記憶しています。 ただ当時の私は高校生の頃に興味を感じていた仕事を諦めたということもあり、また一日中座りっぱなしの仕事でもあったので「つまらないな。嫌だな」と思いながら仕事をしていました。 転機となったのは、仕事を始めて6年が経ったときの出来事です。 あるお客様が来店されました。その方はうちのつげ櫛を見せて「とても使いやすいから、友達にあげたいんです」とおっしゃっていました。 うちのつげ櫛はすべて手作業で作ります。そのため私と父では微妙に仕上がりが違う。お客様が見せてくださったつげ櫛は、一目で私が作ったものだとわかりました。 実は一人でつげ櫛を作れるようになったのは、その前の年からでした。つまりそのお客様は、私にとってはじめて商品についての声を聞かせてくださった方だったのです。 私はお客様に、ご友人に合うつげ櫛を選んで差し上げました。するとお客様はとても喜んでくださって……。 その出来事があってからです。この仕事に大きなやりがいを感じ、続けていこうと思うようになったのは。