シリア政権崩壊からみえる旧オスマン領国の不幸
それゆえ、アサド政権の崩壊に対して、アラブの春のような「民衆による解放」などという神話を語ることなどできない。これからシリアに待ち受けているのは、シリア内の対立勢力の内乱であり、干渉してくるトルコやイスラエルなどとの戦争かもしれない。 いずれにしろ、不幸なことは、オスマントルコの崩壊後にずたずたに切り裂かれ、いまだに安定した国民国家体制をつくれていない中東地域のことだ。また、それは中東地域に限らない。ウクライナ、バルカン半島、北アフリカを含めたかつてのオスマントルコ帝国領の悲劇は終わっていない。
西欧諸国が主張するように、帝国の後には国民国家が成立するのか、それとも帝国のような組織は残存するのか――。過酷だった100年の歴史をみても、それを断定できない。エルドアンのトルコも、オスマン帝国の野望を捨てているわけではない。 ■旧オスマントルコ地域に注目せよ ナセルのエジプトが西欧とソ連が対立する狭間でアラブ同盟を画策したように、アラブ同盟という帝国が出現するのか。それともトルコが後始末をつけるのか。ペルシア帝国の末裔イランがこの地域に介入するのか、それともイスラエルとアメリカが中東をまとめるのか。
果てはロシアがウクライナ戦争の勝利を得て介入してくるのか。それは不明だが、2025年以降も、旧オスマントルコ地域から目を離せないことは確かである。
的場 昭弘 :神奈川大学 名誉教授