会社に壊されない生き方 (13) ── 「半農半X」には癒やしの力がある
THE PAGE
土には人を癒やす力があるのかもしれない ──。過重労働で苦しんでいた人が「半農半X」という生き方を選ぶケースが少なくない。「半農半X」は、自分の食料をまかなう自給農と自分のやりたい仕事を両立させるライフスタイルだ。このライフスタイルの提唱者で、京都府綾部市に住む塩見直紀さん(52)は、「暮らしのなかに農を取り入れるだけでも、心が満たされて安定します」と話す。
塩見さんが半農半Xの生き方をはじめたのは1996年。それまで住んでいた京都市内から生まれ故郷の京都府綾部市に移住して、自らは京都市内の会社に通いながら自給農を始めた。その会社も1999年には退職。今にいたるまで半農半Xを続けている。 自給農的な生活を半分しながら、もう半分は何か自分の好きなことする。その何かが「X」だ。 塩見さんの「X」は、講演やワークショップ、書籍などを通じて半農半Xを伝える取り組みだ。半農半Xを始める以前、塩見さんは、いざという時に家族の命をどう守るのか、という点で不安を感じていた。 大阪や京都の都市部で暮らしていたが、ひとたび大きな災害が起きると物流は一気に滞り、水や食料など生きていくために必要な物資が入手し難くなる。東日本大震災で、食料品や日用品が店頭から消えた光景を目の当たりにした人なら、実感があるだろう。 塩見さんは言う。「今は、安心感があります。うちには1年分の米がありますし、味噌も自分で作っていますし、塩は蔵にストックしています。千葉の都市部から綾部市に移住した人からも『最初は不安だったが、今はすごく安心感が得られた』と打ち明けられました。山野に生えている野草も調理次第でおいしく食べられますし、僕は田舎で飢える人はまずいないのではないかと思います」。 塩見さんは、年間約60件の講演をこなす。講演後の懇親会では、話を聞いた人から「昔はうつでしたが立ち直りました」とたびたび声をかけられるという。