会社に壊されない生き方 (13) ── 「半農半X」には癒やしの力がある
「今考えているのは、半農半Xのルーツが産業革命にあるのではないか、ということです」と塩見さんは言う。 18世紀後半、イギリスで産業革命がはじまると、資本家や経営者がより大きな利益を得るために、女性や子どもを含む労働者を安価にかつ長時間酷使する状況が生まれた。労働者の増加により都市部の人口が急増。インフラ整備が追いつかず伝染病が発生するなど、労働者は劣悪な環境での暮らしも余儀なくされた。 産業革命の波は欧米、そして日本にもおよぶ。富国強兵の名のもとに工業化が進むと、イギリスと同じく、労働者が低賃金かつ劣悪な環境で長時間働かされるという労働問題も発生した。製糸工場で危険な労働環境のなか長時間酷使される女工を描いた映画「あゝ野麦峠」を覚えている人もいるだろう。 19世紀末、イギリスで「田園都市構想」が生まれる。市街地を囲い込む形で農村を配置し、農村と都市の両方の良さを生かして労働環境と住環境を改善しようという構想だった。塩見さんはこの構想に「郊外で農作業をしながら働いて人間らしく生きる」という半農半Xの萌芽を感じ取る。 過重労働に苦しんでいた人が、半農半Xの生き方によって立ち直る例もあるという。会社勤めに疲れ、田舎に移住して農業をするのは、そんなに甘くないのではないかと思いきや、塩見さんは「追い風が吹いています」ときっぱり言い切る。 田舎は農業のプロだらけ、教えてくれる人は十分いるという。農地も農機具もたくさんあまっている。実際、塩見さんが使用していた農機具が壊れたため、新聞の3行広告で譲ってくれる人を募ると、すぐに「うちは農業を辞めたからどうぞ」と連絡が入った。 人口減少の時代、全国の市町村では、地域の魅力をアピールしたり若年層に安価な住宅を提供したりするなど、住民のいわば「争奪戦」が起きている。 「移住者にとって『売り手市場』であり、子育て中の人をはじめ若者は大歓迎だと思います。40代や50代、60代であっても十分若いと思ってもらえるでしょう。空き家もたくさんありますから、住むところも見つかります」。