会社に壊されない生き方 (13) ── 「半農半X」には癒やしの力がある
都会で積み上げたキャリアは、田舎でも活かせる。都会でIT企業にリストラされた経歴を持つある人は、綾部市に移住し、ITに強い人材を募集していた市内の福祉事業所に採用された。しかも、その人はこれまで培ったITの知識を生かすとともに、ケアマネージャーの資格も取得し、今では福祉の専門家としても活躍している。 これまで培った営業力や英語などの語学力も十分武器になる。都会だと、多くの分野がライバルが多数いて競争が激しい「レッドオーシャン」だが、田舎では競合が少ない「ブルーオーシャン」が都会よりも多く残されているという。 塩見さんが、ワークショップの受講者に教えるのは、「3つのキーワード」を掛け算して自らの「X」を探す手法だ。キーワードは、自分の好きなことや得意なこと、気になるテーマ、ライフワークなどだ。 「あるワークショップで、3つのキーワードとして『写真』『自然食』『風水』を挙げた女性カメラマンがいました。『写真』だけなら、その人より実力のある人が少なくないかもしれませんが、ほかの2つを加えれば、3つとも重なる他の人はまずいません。僕は、すべての人にXがあると考えています」 「半農半Xの生き方は、田舎に移住しなくても、都会の市民農園や自宅のベランダでもできる」と塩見さん。Xは、会社員や公務員、あるいはボランティアでも良いという。Xが探せていない人には、周囲の人を応援する活動を勧める。実際に、人をつなげる、場をつくるといった活動をする人も多いらしい。 今日、塩見さんの半農半Xに関する書籍は、国内だけではなく、いまや世界の工場ともいわれる中国をはじめ、工業化が進んだ韓国や台湾でも出版されている。 塩見さんは「半農半Xという生き方が関心を呼ぶのは、都市生活の生きづらさというものがあるのではないでしょうか」と話している。 (取材・文:具志堅浩二)