「親が元気なうちから準備する」はNG…老親をヨボヨボ老人に変える"家につけてはいけない介護設備"の名前
■GPSをつけるのであれば、外出に寛容になったほうがいい ただ、そう思っていても、やはりそばで見ていれば、つい手を差し伸べたくなってしまうのが家族というものです。 そばにいると、転ばないように「ああしなさい、こうしなさい」と余計なことを言ってしまいます。でも、離れていれば見えませんから、親にプレッシャーを与えずにすみます。ですから、やはり距離感が必要なんです。 物忘れや生活の変化など、症状はいくつかありますが、認知症の親を持つ家族のいちばんの心配の種は徘徊(はいかい)だと思います。実際、外に出たまま家に帰ってこず、行方不明になってしまうケースが増えていて、社会問題にもなっています。 「このまま帰ってこなかったら、どうしよう」「どこかで事故にでも遭っているんじゃないだろうか」。家族は気が気ではありませんから、GPS(全地球測位システム)をつけることを検討している人も多いと思います。 本来は本人の了解を取ったほうがいいのでしょうが、伝えることでかえって混乱しそうなのであれば、知らせずにこっそりつけるのもありかと思います。大事なのは、GPSをつけているからこそ、家に閉じ込めない、「もっと外に出てもいいよ」と言うことです。 ■親の暴言は家族に原因がある可能性も GPSを使う目的は、あくまで親が外に出て道に迷ってしまったときに、居場所をスムーズに把握するためです。GPSをつけておきながら、家に閉じ込めてストレスを与えてしまっては、まったく意味がありません。 認知症の症状には大きな要因が2つあって、1つが脳のなかの海馬(かいば)が萎縮するという器質的な変化、もう1つが本人にかかるストレスです。この2つの要因が掛け合わさって、暴言、暴力、徘徊などいろいろな症状となって表れます。 ですから、脳の萎縮が相当進んでいたとしても、本人にかかるストレスが緩和できていれば、物忘れがあっても穏やかな状態でいられます。逆に、脳の萎縮がそこまで進んでいないにもかかわらず、かかるストレスが強いと症状は激しくなってしまいます。 そして、とても残念なことに、そのストレスの多くは、家族がよかれと思ってやっているケアに原因があります。つまり、親が徘徊したり暴言を吐いてしまうのは、家族にその原因があるかもしれないのです。 ---------- 川内 潤(かわうち・じゅん) NPO法人「となりのかいご」代表 社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、老人ホーム紹介事業、外資系コンサルティング企業勤務を経て、在宅・施設介護職員に。2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年にNPO法人化し、代表理事に就任。厚生労働省「令和4~6年度中小企業育児・介護休業等推進支援事業」委員なども兼務する。家族介護による介護離職、高齢者虐待をなくし、誰もが自然に家族の介護にかかわれる社会を実現すべく、日々奮闘中。著書に『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社)、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)、『親の介護の「やってはいけない」』(青春新書インテリジェンス)などがある。 ----------
NPO法人「となりのかいご」代表 川内 潤