「根が暗くて、うっとうしい」性格の作者だからこそ描けた『源氏物語』。いよいよ完成か!?【NHK大河『光る君へ』#31】
【史実解説】『源氏物語』は日本の政治に大きな影響を与えていた!
本作においても『源氏物語』が一条天皇の心を大きく動かし、道長の出世にも影響しそうな予感がします。 本作ではカササギ語りの評判を聞きつけた道長がまひろのもとを訪ねていましたが、史実においては道長が紫式部に声をかけたのは『源氏物語』の一部が評判になった後と一般的に考えられています。道長は彰子のまわりを帝に興味をもってもらえる空間に整えようと企て、『源氏物語』で名を知られていた紫式部を彰子の女房として招き入れたのです。 『源氏物語』は彰子や道長の政治にも大きな影響を与えました。本著の豪華版は彰子と一条天皇をつなぐ架け橋になったという説もあります。 印刷技術がなかった当時、本の複製は人間の手作業ですべて行われました。清書係が原稿を書き写し、戻ってきた原稿を手作業で綴じます。道長は上質な薄様紙(うすようがみ)や墨、筆などを用意し、紫式部と彰子は冊子作りに携わったと伝わっています。 彰子は『源氏物語』を手に内裏に帰ると、翌年の11月に敦良親王を出産しました。また、彼女はさまざまな経験をする中で、中宮としての風格をそなえていったといわれています。彼女は道長に意見できるほど強く、たくましい女性だったとか。 道長と彰子が『源氏物語』の豪華版を一条天皇に贈らなければ、一条天皇と彰子の関係や一条天皇の道長に対する評価はいくらか変わっていたかもしれませんね。 ▶続きの【後編】を読む▶ 「光る君へ」をもっと深く知るために、平安時代における「紙」について解説していきます。当時は「紙」は高級品!貴族たちも紙を当たり前に使いまわしていた? 参考資料 昭文社 出版 編集部 (編集)、竹内正彦 (監修)『図解でスッと頭に入る紫式部と源氏物語』 昭文社 2023年
アメリカ文学研究/ライター 西田梨紗