なぜ久保建英はジャマイカ戦で驚愕の4人股抜きシュートを決めることができたのか?
日程が重複するA代表に専念している森保一監督に代わり、3月シリーズに続いてU-24代表の指揮を執る横内昭展監督も、久保のプレーに目を細めた。 「相手のラインの間でしっかりとボールを引き出して、フリーならばどんどん仕掛けて、得点シーンも含めて積極的にゴールへ向かう姿勢をよく出してくれた。前回(のU-24ガーナ戦)でも、(堂安)律の先制ゴールは彼のシュートから生まれていたので」 18人の代表メンバー入りをかけた最後のアピールと、東京五輪本番への強化の両方をにらんだ6月シリーズを、A代表に喫した完敗からV字回復させて終えた。 「まだ何も決まっていない状況ですし、いったんこれで解散して、あとはメンバー発表を待つのみになりますけど、個人としてできることをやったつもりです」 代表メンバー発表を今月下旬に控えるだけに、久保自身は本大会へ向けて多くを語らなかった。それでも、6月シリーズから加わった3人のオーバーエイジの存在には「言うならば、もう助っ人外国人みたいな感じですね」と全幅の信頼を寄せる。 特に日本だけでなく世界をも驚かせた先制点は、酒井の鋭い観察眼が大きく寄与していた。実は日本ボールのスローインになった直後に、飲水タイムが設けられていた。 「そこで酒井選手がボールを持って、僕にジェスチャーと軽い目配せで『裏、裏』という感じで声があって。審判も相手チームに対して『試合が始まるよ』と再三促していたし、ちょっと油断している感じだったので、あえてフラフラしつつ裏を狙った形です」 キックオフ時の気温が28度近くに達するなど、デイゲームで行われた一戦は汗ばむような陽気になった。飲水タイムによる中断で、ジャマイカの選手たちの集中力が途切れた状態を、百戦錬磨の経験をもつ31歳の酒井は見逃さなかった。 敵陣の中央からまったくの無警戒だった右タッチライン際へ。棒立ち状態だったジャマイカの隙を突いてスルスルと抜け出した久保は、あうんの呼吸で酒井からスローインを受けて、ポストに当てていた場面を逆手に取る形から先制ゴールにつなげた。 キャプテンとしてチームを束ねた32歳のDF吉田麻也(サンプドリア)、前半42分に追加点を決めた28歳のボランチ遠藤航(シュツットガルト)を加えた、A代表でもともに戦ったオーバーエイジ候補の存在意義を、久保は独特の言葉でこう描写した。 「そもそも大会の構造として3人までオーバーエイジが入れる理由は何かと、自分なりに考えたときにやはり経験だと思いました。3人が入って試合がより面白くなるし、大人のサッカーになるし、チームのレベルも上がる。僕たちは力を借りて、選ばれた選手が一緒に戦えればいいと」 融合できるかどうか、というレベルをいとも簡単に超越。助っ人外国人になぞらえたように、U-24代表の実力を飛躍的に引き上げたオーバーエイジの存在を、右肩上がりで上昇するメダル獲りへの期待値に置き換えた久保は、東京五輪本大会へ向けた次なる準備として、長いシーズンを戦い抜いた疲労を取り除くためにつかの間のオフに入る。 (文責・藤江直人/スポーツライター)