昨年登場の液体水素カローラが富士24時間でさらなる進化! タンクを異形化して航続距離大幅増を実現
富士スピードウェイで5月25日に決勝レースがスタートするスーパー耐久シリーズ第2戦 富士24時間レース。トヨタは液体水素を燃料として搭載した『#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept』を走らせるが、記者会見の中で車両の進化について説明された。 【写真】異形化された水素タンク トヨタはこれまで、水素エンジンカローラの開発をスーパー耐久を通して行なってきたが、2023年からその燃料を気体水素から液体水素にスイッチ。気体水素時代の2022年富士24時間では航続周回が12周だったのが、液体水素の昨年は富士で行なわれた最終戦(4時間レース)で20周になるなど、2倍近い航続距離を達成した。 しかしトヨタは、今年の富士24時間までの開発期間で、様々な点をアップデートしてきた。進化した点は主に3つだという。 まずひとつ目が、液体水素ポンプの耐久性向上。液体水素カローラはタンクからエンジンまで水素を送る際、ピストンの往復運動によって圧送する(往復動式)ポンプを採用しているが、このポンプは圧力レンジが高いため、モーターにトルクを伝えるクランク等への負荷が大きく、昨年の富士24時間では計画的なポンプ交換を2回行なったという。 しかし今回はクランクに“Dual-Drive”と呼ばれる機構を導入。クランクの両端からモータートルクを入力することでバランス良く昇圧ピストンを動かし、耐久性向上に繋げているという。今回のレースではポンプ無交換を目指す。 2点目がタンク容量の増加。これまで円筒形だった水素タンクを、異形(楕円形)へと改良している。気体の水素は圧力が高いため、それを均等に分散できるよう円筒形のタンクが必要だが、液体水素は気体水素よりも低圧のため、異形タンクが実現できたという。 これにより車内のスペースを効率良く使って多くの水素を搭載することを実現しており、水素搭載量は1.5倍に。これにより航続周回数も20周から30周に大幅増する見込みだ。またタンクの異形化に合わせたパッケージの最適化のため、今回走る車両は新車となっており、液体水素カローラとしては2台目だという。 もちろんタンク容量が大きくなると車両重量は重くなってしまうが、開発担当者によると車体の軽量化でタンクの重量増を相殺しており、重量配分の変化はあれど、車両のパフォーマンスは「むしろ上がっている」方向とのことだ。 また楕円形の容器に液体水素を貯蔵するという前例のないケースに関する法的な認可に関しても関係各所と調整したとのこと。トヨタ自動車の豊田章男会長が水素社会推進議員連盟の小渕優子会長にサポートを要請したことで、早急な対応に繋がった。GRカンパニーの高橋智也プレジデントは「水素社会は、クルマ、インフラ、法整備が同じ歩幅で進まないと実現しないと思っている。まだまだ課題はありますが、みんなで手を取り合ってやっていくことが大切」と述べた。 そして3つ目がエンジンルームに装着する「CO2回収装置」の改良。具体的には、エアクリーナー入口にCO2を吸着する装置、その隣にエンジンオイルの熱によってCO2を脱離する装置を設置し、脱離したCO2を小型タンクに回収しているが、この吸着と脱離の工程をメカニックによる手動切り替えではなく、走行中に自動で行なう機構が採用された。 気体の水素から液体の水素へ。当初はピット裏のパドック内に大型のタンクローリーを構えて行なっていた給水素も今ではピット内での作業が可能となるなど、実に様々な進化を続ける水素カローラだが、開発陣は市販化までの課題はまだまだ山積みだと語る。例えば前述のポンプにしても、例え24時間レースを走り切れたとしても、実用化のためには何万キロ単位での耐久性が求められるだろう。 高橋プレジデントは「水素エンジンの燃焼の基礎はある程度やり切ったと思っていますが、それを商品化する上では、ポンプの例を筆頭にまだまだ分からないことがたくさん。どこがゴールか分からない中で、着実に進んでいくという仕事を諦めずにやっていくことが、我々のS耐での一番のミッションだと考えています」とコメントした。
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