次の100年へ 生まれ変わる昭和の名建築「学士会館」 探訪
日が暮れた東京・神保町。重厚な外壁に並んだ窓ガラスから温かな光が歩道へともれている。半月円のアーチをくぐって黄金色の扉を押すと、赤い絨毯(じゅうたん)にレトロな照明、美しいステンドグラスやらせん階段に迎えられた。 【写真】結婚披露宴などに使われる最も華やかなメインバンケットルームの201号室。数々のドラマや映画のロケ地としても有名だ 昭和3年、旧帝国大学の卒業生でつくる学士会会員の交流の場として東京大学発祥の地に建てられた学士会館。12年に完成した新館とともに近年は結婚式場やホテルとして親しまれてきたが、老朽化による免震工事や再開発のため昨年12月29日に休館となった。 学士会館は、関東大震災後に建てられた震災復興建築。旧館は、昭和初期に流行したスクラッチタイルの外壁で覆われながらも、震災の教訓から当時まだ珍しかった耐震、耐火の鉄骨鉄筋コンクリート造りとなっている。 竣工(しゅんこう)から約1世紀。昭和から令和へと激動の時代を駆け抜けるなかで歴史の舞台となってきた。昭和11年の二・二六事件では第14師団東京警備隊司令部が置かれ、先の大戦時には屋上に高射機関銃陣地が設けられた。終戦後は連合国軍総司令部(GHQ)に接収され、31年に返還されるまで米軍の高級将校の宿舎やクラブとなった。 今後、新館は解体されるが、歴史的価値の高い旧館は曳家(ひきや)工事で保存され、5年を予定している再開発期間後も活用される計画だ。 閉館セレモニーに訪れた杉崎拓也さん(32)は「ここは結婚式を挙げた思い出の場所。再開したら妻とまた、遊びに来ます」と話す。 今年は「昭和100年」。学士会館は、昭和の記憶を残しながら、しばしの休みを経て次の100年に向けて生まれ変わる。(写真報道局 松井英幸)