<高校サッカー>ロングスロー旋風もJリーグからは声かからず
30mを楽に超える驚異のロングスローで青森山田(青森)の得点源になったDF原山海里(3年)は、試合を重ねるごとに第94回全国高校サッカー選手権の「主役」の一人となった。 後半アディショナルタイムに喫した悪夢の失点で國學院久我山(東京A)に屈し、涙とともに高校サッカーを終えた9日の準決勝でも、原山は強烈な残像を埼玉スタジアムのピッチに刻んだ。 前半で6度。そして、後半で4度。合計で10度も右手で合図をしてから助走に入り、加速がついた5歩目で思い切り上体を反らし、その反動を生かして両腕をちぎれんばかりに振り抜く。 3本目となった前半17分。相手ベンチのちょうど前で獲得したスローインでは、約35m先にポジションを取った189cmの長身DF常田克人(3年)がジャンプした頭に、ピンポイントで照準を合わせる。常田が後方にすらしたボールを、ワントップのFW鳴海彰人(2年)が頭で押し込んで先制した。 2点のビハインドから逆転勝利を収めた、昨年12月31日の大社(島根)との1回戦で決勝ゴールを含む2ゴールを演出。サッカー界に衝撃を与えた「飛び道具」は、後半アディショナルタイムの奇跡の同点弾をアシストし、PK戦で劇的勝利をもぎ取った桐光学園(神奈川)との3回戦で「全国区」となった。 ロングスロー職人としての序章は、実はPK戦の末に中津東(大分)に1回戦敗退を喫した昨年度の選手権で幕を開けていた。1点を追う後半37分。一時は希望を紡ぐ同点ゴールをアシストしたのは、直前にスローイングを獲得した瞬間に投入され、相手チームを唖然とさせる長距離砲を投じた原山だった。 その後に産声をあげた新チームで右サイドバックのレギュラーを獲得した原山に対して、黒田剛監督はこんな檄を飛ばし続けた。 「ロングスローを投げられないようだったら、メンバーから外すぞ」 インターハイ予選に始まり、インターハイ、プレミアリーグウエスト、そして19年連続の選手権出場をかけた青森県大会で、原山のロングスローは青森山田の得点源の大きな部分を占めてきた。 手を使える分だけ、ある意味ではフリーキックやコーナーキックよりもコントロールがつく。それでいて、オフサイドはない。現時点における原山の最長不倒距離は約40m。話題性だけでなく、いますぐプロの世界でも通用する強力な武器といっても決して過言ではない。 桐光学園戦から一夜明けた4日には、横浜市内で練習していた青森山田のもとを、近くで自主トレをしていた元日本代表MFの中村俊輔(横浜F・マリノス)が電撃訪問。桐光学園OBでもある俊輔は、母校の敗因となった原山のロングスローをこう絶賛している。 「ああいうプレーは、プロでもやることがある」 実際、黒田監督も原山のロングスローが、相手に計り知れないほど大きな脅威を与えていると認めている。