<高校サッカー>ロングスロー旋風もJリーグからは声かからず
しかしながら、一芸に秀でているだけでは評価されないのがプロの世界でもある。 Jクラブからのオファーが届かなかった原山は、卒業後は東京学芸大学へ進学。湘南ベルマーレ内定のMF神谷優太、ベガルタ仙台内定の常田とは別のカテゴリーへの道を歩む。 「ウォーミングアップは肩だけやっておけ」 こんな言葉をかけてきた黒田監督は、原山の現在位置をこう評価している。 「あれ(ロングスロー)だけでは(プロには)行けないでしょう。真面目に一生懸命やる子だけれども、足が速いわけでもないし、身体能力的なアベレージは低い。そうなると、やはり上では通用しない」 野球経験者だった父親からの遺伝か。ソフトボール投げで60mを超える地肩の強さを誇る原山は、埼玉県で生まれ育った。母親の薦めで幼稚園のときに初めてボールを蹴ったという原山は、小学生のときに所属した上尾大石SSSで大きな挫折を味わう。 小学校4年生か5年生のときだったと、原山はロングスローの「ルーツ」を桐光学園戦後に振り返っている。 「実はスローインが下手で、ファウルスローをよくとられていたんです。そうしたら当時の監督に『ファウルスローをするくらいだったら、お前は練習に参加しなくてもいいから、ゴールの裏のネットに向かってボールを投げていろ』と言われたんです。なので、練習に参加することなく、ひたすらボールを投げていました。そうしているうちに、スローインを投げられるようになったんです」 試行錯誤の末にコツをつかみ、不得手を必殺技へと昇華させていった真面目な性格もまた、原山のもうひとつの武器といってもいいのではないだろうか。 「自分は技術が高いわけではない。戦う姿勢と声の大きさ、ロングスローで貢献したい」
國學院久我山戦の前半20分すぎ。相手FW小林和樹のシュートをブロックにしにいった原山は左足首を強く捻り、ピッチの外に出て応急処置を受けている。黒田監督は「代えようか」と観念しかけたという。しかし、副キャプテンを務める原山はハーフタイムには痛み止めのボルタレン座薬を入れて後半のピッチに立った。 厳しい指導で知られる指揮官も「本当に感謝している」と目を細める。高校最後の90分間で見せた闘争心と責任感は、これからも174cm、68kgのサイドバックの体に脈打つエネルギーとなる。 プロのレベルで通用しないのは、あくまでも現時点でのこと。現在は関東大学リーグ2部所属だが、これまでにDF岩政大樹(ファジアーノ岡山)、MF高橋秀人(FC東京)の日本代表経験者を輩出している東京学芸大学蹴球部でのチャレンジへ。不断の努力で未来を変えていってほしいと、黒田監督はエールを送る。 「サッカー自体のスキルも、もっと上げていかないと。その点をしっかりと大学の4年間で磨いてくれれば、可能性がないわけではないと思っています」 MF柴崎岳(鹿島アントラーズ)らを擁した、2009年度大会の準優勝を越える目標はかなわなかった。それでも、プロをも慌てさせるであろう一撃必殺のロングスローの鮮烈な軌跡を成長への糧にして、出場資格をもつ4年後の東京五輪で今度は世界を驚かせる夢を描きながら、原山は新たなフィールドへ旅立つ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)