新型ホンダN-VAN e:は働く人にとって素晴らしき1台だった理由とは?
大地に根が生えているみたいな安定感、安心感がある。
室内は質素である。運転席まわりではレバー型だったギヤのシフターはホンダのハイブリッド車でお馴染みのボタン型にあらためられている。着座位置は高く、見晴らしはたいへんよい。フロント・ガラスはほぼ直立しており、ずいぶん高いところまで上に伸びている。スターターのボタンを押すと、電池のエネルギーは満タン、航続可能距離は208kmと液晶画面に表示された。245kmではないのは、それまでの走行パターンも含めての予測の数値だからだ。 ブレーキをゆるめると、ゆっくり動き出す。アクセルを軽く踏むと、エンジンが唸ることなくスッと前に出る。駆動系のスムーズで静かなことも印象的だ。さすがEVである。 それと乗り心地のよさに驚いた。軽商用バンというのはたいていリヤが跳ねる。N-VANの場合、最大積載量350kgを積んでも大丈夫なように脚がセットされている。走り出して、ポンポン跳ねるぞ。と、思っていたら、ぜんぜんそうではない。しっとり落ち着いている。サスペンションは車重増に合わせて、自然吸気モデルよりバネとダンパーの最適化を図っている。つまり硬くしている。それなのに、跳ねない。バッテリーが積荷代わりになっている。搭載位置が前席と後席の床下ということで、低重心につながってもいる。電池保護のためのフレームもボディ剛性アップに効いているはずだ。全高1960mmと、2.0mに届きそうな背の高さで、しかも全幅1475mmという軽の枠に閉じ込められた狭いトレッド、というプロポーションなのに不安定感はない。大地に根が生えているみたいな安定感、安心感がある。 内燃機関と違って微振動がまるでないのもEVの特徴だ。ガバチョとアクセラレーターを開けても、ヒュ~ンッという人工音は聞こえてこない。ただロードノイズのみが高まる。信号待ちからゼロ発進加速を試みると、全開加速をしなくとも十分速い。これはいきなり最大トルクを発揮するモーターの特性による。全開にすると、加速がサチュレート(飽和)してしまう感が出てしまう。開発者によると、0~100km/hの数値はN-VANのターボと同程度。 けれど、エンジンとは違って静かで、しかも加速の初期の立ち上がり方が違う。0~50km/hが速い。162Nmの最大トルクの出方も絶妙で、ものすごく乗りやすい。横浜の山手町、港の見える丘公園へと向かう急な上りの地蔵坂もなんのその。急な下り坂は、B(ブレーキ)レインジに切り替えると、エンジン・ブレーキと同様の効果が得られる。 もちろん充電スポットの数が少ないとか、急速充電でも30分かかるとか、あるいは発電そのものをどうするのか、というEVにかかわる大問題は依然として藪のなかである。 とはいえ、うるさくて遅くて振動だらけの軽商用バンがEV化によって、静かで快適で、よく走る乗り物に変身したのだ。働く人にとって、これ以上の朗報はない。趣味グルマにしようという人は、時間のかかる充電もまたよきかな。充電スポットが見つからないワクワクドキドキもまた楽しきかな。 価格はe:L4で269万9400円、e:FUNで291万9400円。国からの補助金が55万円、事業用の黒ナンバーだと約100万円もらえる。さらに各自治体からの支援制度もある。要チェックである。イーっ!
文・今尾直樹 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)