日本の金利はどこまで上がるのか 正常性バイアスと「円金利急騰シナリオ」【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
------------------------------------- 【目次】 1.異常な低金利が続く日本 2.「正常性バイアス」という仮説 3.Rスターを起点に検証する金利上昇ポテンシャル ------------------------------------- 12月18、19日に開催される日銀の金融政策決定会合を前に、市場では追加利上げの有無に関心が集まっています。特に、レバレッジをかけて大きなポジションを振り回すトレーダー達は、「今月か、来月か」という利上げの実施時期について、神経をとがらせているように思われます。しかし、短期の値幅取りを狙う一部の市場参加者を除けば、短期的な利上げタイミングよりも、「円金利はどこまで上昇するのか」という将来の金利動向のほうがより重要なのではないでしょうか。そこで今回は、さまざまな仮説を置いたうえで、日本の長期金利の上昇余地について考えてみたいと思います。
1.異常な低金利が続く日本
■弊社では、変動の大きい食品を除いた消費者物価指数(コアCPI)について、来年度から再来年度にかけて2%前後の水準で推移するものと見ています。そして、日銀は政策金利を現状の0.25%から2025年1月に0.5%へ引き上げ、その後も7月に0.75%、2026年1月には1%へと段階的に引き上げていくものと予想しています。このため、日本の長期金利は今後も徐々にレンジを切り上げていくものと想定していますが、足元の日本の10年国債(10年債)利回りは1%を若干超える水準に留まっています。 〈実質金利マイナスはG7で日本だけ〉 ■こうした日本の低金利は、インフレを考慮するとさらにその違和感が際立ちます。市場が織り込む期待インフレ率を控除した日本の実質10年債利回りは、現在▲0.386%で、G7では唯一マイナスとなっています。ちなみに、米国の同実質利回りは2.053%、欧州で最も信用の高い(金利の低い)ドイツは0.455%、フランスは1.012%、イギリスは0.897%などとなっており、日本の長期金利は突出して低い水準に留まっています(図表1、データはいずれも12月13日時点)。 ■政策金利は各国の中央銀行が決めるものですから、ある程度人為的なコントロールが可能です。しかし、市場メカニズムにより決まる長期金利は、そういうわけにはいかないでしょう。では、どうして日本の長期金利は突出して低い水準にとどまっているのでしょうか。 ■過去の異次元緩和の影響だとする意見もあります。しかし、10年債の利回りだけが極端に低い状態はすでに解消し、イールドカーブの形状は普通の緩やかな右肩上がりに戻っています。また、日銀が集計する債券市場の機能度判断DIを見ても、市場の値付け機能は着実な改善傾向にあることが窺えます(図表2)。 〈大規模緩和は終了、市場機能改善でも低金利の不思議〉 ■日銀行員や外部研究者による研究の成果を公表する、日本銀行ワーキングペーパーシリーズの「大規模金融緩和の金融システムへの影響に関する反実仮想分析(2024年6月)」によれば、「大規模緩和には、イールドカーブを大幅にフラット化させる効果があった」と記されています。そして、10年債利回りへの押し下げ効果は、おおむね0.8%前後との試算が図示されています。一方、実際の債券市場の動きを見ると、2020年末から直近まで期待インフレ率(10年)は約1.4%上昇し、さらに大規模金融緩和が終了したにも関わらず、同期間の10年債利回りの上昇幅は約1%に留まっています。なぜ、大規模緩和が終了し、インフレの高止まりが続いているにもかかわらず、長期金利は低水準が続いているのでしょうか。
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