景気回復を続けるベトナムだが…「ドン買い介入コスト」による下押し圧力には留意【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】
※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
【“プロ”に聞く!ベトナム経済】 ●景気は回復傾向にあるが、ドン買い介入コストによる下押し圧力には留意
経済成長率が加速
ベトナムの2024年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+6.9%と、市場予想の同+6.0%を上回り、1-3月期の同+5.7%から加速しました。かつて懸案であった不動産業の成長率も加速傾向にあり、ベトナムの景気は回復局面に入っているとの判断を継続します。政府の2024年の成長率目標は6.0~6.5%ですが、2024年前半に前年同期比+6.4%となった実績を考慮すると、目標達成は可能だと思われます。
景気回復を支える3つの要素
ベトナムの実質GDP成長率は2024年後半に前半より加速しやすいと判断できる3つの要素があります。第一に、政府は2024年後半も付加価値税率を10%に戻さずに8%で据え置くと決定したことです。8%据え置きの対象は日常生活の財がメインになっているので、消費を下支えする役割を果たしそうです。 第二に、政府は7月1日付で最低賃金を少なくとも6%引き上げる決定をしたことです。最低賃金の引き上げは2022年7月以来、2年振りの決定であり、この点も消費を下支えしそうです。 第三に、実質GDP成長率の季節性です(詳細は 4月18日発行のアジアトーク で解説)。2024年の最終四半期の10-12月期には政府も企業も年度目標値を達成しようと努力するため、ベース効果を踏まえても年後半の成長率は年前半より加速しやすいという季節性があります。
ドン買い介入コストに留意
米ドルは、6月下旬以降7月中旬までは下落傾向にありますが、ドンの対米ドルレートは依然として取引レンジ下限近辺で推移しています。ベトナム国家銀行は、ドンレートを取引レンジ内に収めるため、6月の米ドル高局面では相応の規模のドン買い介入を実施し、6月下旬以降は比較的小規模なドン買い介入を行っている可能性があります。ドン買い介入はマネーストック(経済全体に供給されている通貨の総量)の下振れをもたらしやすく、引き締めのような影響が出てくる可能性があります。 国家銀行は毎営業日、ドンの基準レートをほぼ同じ水準で据え置いていますが、基準レートを市場レートに近づけるように急激にドン安で設定すると、市場参加者は政府がドン安政策を採用したと解釈し、ドン安圧力が一段と強まるリスクがあります。こうした対話の行き違いを回避するためには、ドン買い介入コストを払ってでもドン安定を目指すと考えます。ただし、同時に引き締めのような影響が景気下振れリスクとして作用しうる点にも留意が必要です。今後、米ドルが上昇局面に転じればこのリスクには更に留意する必要がありそうです。 (2024年7月18日) 石井 康之 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフリサーチストラテジスト ※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『景気回復を続けるベトナムだが…「ドン買い介入コスト」による下押し圧力には留意【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】』を参照)。
石井 康之,三井住友DSアセットマネジメント株式会社
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